社交関係を支えている表象と意味の諸形相とその象徴体系。あらゆる社交関係の活動、実
践、習慣の形成において、自
他、主客の分
節とともに、体系的ないし構造的に意味または価値、すなわち記号の秩序が生産され、かつ再生産される再帰的な相関過程の総体。
一般慣用的には、ヒトの創作行為およびデザイン表象によって産み出された財や技術、またはそのための
活動や習慣そのものを意味す
る。→文化=
資本
英語のcultureはラテン語のcultraに語源のひとつを持つとされる。つまりそれは、耕作、
栽培、養殖などを意味した。
また、この単
語が、崇拝、儀礼などの宗教的意味合いで用いられるカルト(cult)と同系の語源を持つことは、ヒトの文化に対する宗教社会学あるいは宗教人類学の関心
においてとても興味深い。
文化の観念は、社交集団のアイデンティティを象徴する記号(表象)として機能する。そ
のアイデンティティは他者に
よってラベリ
ングされることもあれば、その集団内部によってラベリングされることもある。若者文化、大衆文化、企業文化、日本文化、サブカルチャーなどといった文化の
アイデンティティをめぐる多様な観念が社交的に流通している。
文化観念のアイデンティティは、社交関係におけるディスタンクシオンとも関わる。文化
という語は、歴史学的にいう
なれば、西欧
の特に18世紀中期以降において、階級的に上位の習慣(品位)や伝統、または高い教養と結びつき、また、社会や文明観念の台頭とともに啓蒙的な意味合いを
主に象徴するようにもなり、文字を使用する社会(文明)と文字を使用しない社会(未開)との差別、高貴な美のセンス(sense)や教養を象徴する財(芸
術作品、象徴財)やその価値観を領有し嗜む習慣という、社交的かつ文明的な特権感覚の様相を色濃くもつ観念となった。
「未開社会」なるものを発見した(構造)人類学的に観察される文化は、男女の象徴的な意味の分節を記
号にした儀礼的な意味論の世
界である。
科学的に客観化された広義の文化観念では、先天的、生得的、潜在的な能力に対し、後天的、伝達的、学
習的な能力を示す区別におい
て一般に用い
られている。
あるいはまた、生物(動物)が彼らにとっての独自の生活圏(生活環境)を産出するため
に自然環境を改造(デザイ
ン)する技術と
その営み全般を文化とよぶこともできる。生物、すなわち生命は、そもそも、情報の記号学的な構造論ないしシステム論からみれば、その存在自身が意味(情報
または記号)の秩序もしくはシステムであり、生物の種にはその種固有の自己と環境との分節による実存の関係様式であり生活様式である文化圏が
あると考えることもできる。この文化圏は、生物の進化史(変化史)において重要な意味を持つと考えられる。
→構造主義生物学、情報生態学
文化記号学の立場から丸山圭三郎氏は、文化を、ヒトの過剰な「シンボル化能力」が「身分け構造」を越
えて産み出
す「言分け構造」の所産とみなし、あるいはまた、小原秀雄氏らのように、動物行動学的立場から、特にヒトの文化の発達(文明史)を「自
己家畜化」の過程として論ずるなど、そのほか精神分析論的文明史観などもふくめ、文化の発生論に関するさまざまなアプローチがある。