「皿男/電話の幽霊」他

 帰り道は川縁を歩く。川縁といっても冬の間は水量が極端に減っているから、申し訳程度に残った細い流れに沿って、露出した川底を歩くのである。川底の泥は灰色で、水が引いているとはいえまだ湿って少し柔らかく、強く踏めば靴が沈んで水が沁み出しそうに思われた。
 左には川に沿って森が茂っている、右は道路である。暫く歩くと橋が見えた。
 その橋の下をくぐって進む筈だったのが、行く手の土が俄に高く盛り上がっていて、上の道路まで続いている。川の水の流れるすぐ脇から傾斜になっていて、そこを迂回して歩くのは無理に思われたので、ひとまずその傾斜を道路まで上ることにした。傾斜には浅く窪んだ足跡がいくつもついていた(乾きかけている、随分以前のもののようだ)。
 暫く歩くと川は既に見えなくなり、山際の道の右側には海が広がっていた。路肩の余程下に波が打ち寄せ、二、三十メートルはある絶壁である。柵も何もない。私の歩く道と並行して、海に架かった高速道路が見える。その橋桁は潮に浸かっているので、根元に海の細かな生き物や貝殻がびっしりと付着していた。
 路肩に寄って見おろすと、水が白く泡立って、波頭はひどく巨大に見える。潮はうねうねと粘液のような変にゆっくりとした動きで、波の打ち寄せる物凄い音が時折響きはするが、波の動きとその轟音とが微妙にずれているように思われた。
 道路は見える限り海岸線に沿って続く筈だが、行手の先に霧のような白い靄がかかり、全くわからなくなっていた。


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