「皿男/電話の幽霊」他
畑に挟まれた杉並木の長い長い道を友人と二人で帰ってきた、空は鉛色で並木の果てに靄がかかり低く垂れ下がって鼻先に冷たく湿るような気がした、友人ははじめから何も言わなかった。
扉を開けて玄関に入ると上がり框に置いた靴墨用の箱から白い猫が飛び出してきて下駄箱の傍らに蹲った、居間には父と母の遺した書き置きがある食卓が乱れて汚れた皿何か赤い色の食べ残しや飲みさしのコップが脈絡もなく打ち捨ててある、時計を見るともう朝の五時をまわっていた。