12月18日(火)
〜「歴史」に取組む国立博物館〜●1、豪州国立博物館を見学
火曜日の午前中は、豪州国立博物館(The National Museum of Australia)に出かけた。
この博物館は、かつて病院があった場所に新しく建設されたもので、豪州及び豪州人の歴史を様々な角度から見ることができる展示物が並べられている。外観は如何にもモダンな(あるいは、「芸術が爆発した」)感じだが、建物の中には液晶テレビを駆使した映像展示から実際に使われていたバッファロー捕獲車まで、実に色々なものが展示されている。なお、入場料は無料だった。
もっとも、この博物館は、その外観以上に違和感を感じる点がある。少なくとも、そこにはシドニーやキャンベラで感じる空気とは異質のものが流れているといってもよかろう。そしてその原因は、「先住民族問題」にある。
オーストラリア先住民族は「アボリジニ」(Australian Aborigine、約28万人)が有名であるが、もう一つ、大陸北東部のヨーク半島とニューギニア島の境にあるトレス海峡に済むメラネシア系「トレス海峡諸島民」(Torres Straight Islander)が約1万3000人おり、アボリジニと同様に独自の旗と先住民族の権利を主張している。先住民族の土地所有権を認めた1992年の豪州高等裁「マボ判決」は、実はこのトレス海峡諸島民が提訴したもので、政治的・歴史的な独立心が強いとされる。実はオーストラリアは、90年代以降この先住民族問題が一つの大きな国家的イシューとなっており、2000年5月には「先住民和解委員会」主催の「コラボリー2000」なる式典が開催されたこともあった。2000年9月にはシドニー・オリンピック女子陸上で、優勝したアボリジニのキャシー・フリードマン選手がアボリジニ旗を持って場内を歩き、「和解」の象徴とされたが、政府(ジョン・ハワード保守連合政権)は賠償問題を惹起しかねないとして「謝罪」には応じておらず、またアボリジニ側でも一部に「条約」の締結を求める声がある。
こうした状況を反映してか、この豪州国立博物館には至るところに先住民に対する配慮がなされており、正面玄関にはオーストラリア国旗の他アボリジニ旗とトレス海峡諸島民旗が掲揚され、全体の約4分の1は先住民関係の展示コーナーになっている。来場者が最初に訪れる「シルカ」という展示スペースでは、映像の中でアボリジニやアジア人を含む様々な「豪州人」が「私はオーストラリア人です」と口々に語る。他方、全体の主要な部分はやはり開拓後の白人国家・オーストラリアの歴史を展示しているのであり、そこには先住民族コーナーとの大きな段差、断絶がある。そしてこの「断絶」こそ、私をして違和感を感じせしめた最大の原因ではないだろうか。
歴史を単純に割り切ってしまえば、現在のオーストラリアはイギリス人がアボリジニらの土地を侵略して建国された侵略国家であり、アングロサクソン人が先住民の土地と自然を略奪したと批判することも出来る。今、豪州の白人らが安穏としてオーストラリアなる国家を名乗っていられるはそれがたまたま1901年に建国されたからであって、これが100年後の2001年だったら到底認められないであろう。この点、我々日本人は、少なくとも1901年以降日本列島域内において諸外国からそのような指弾を受ける心配が無い。ただ、その一方で、経済的に発展した現在のオーストラリアを作り上げたのは紛れも無くアングロサクソン系豪州人であり、思い上がりもあったにせよ彼らの勇猛な開拓者精神である。この2つの歴史観を接合することの難しさと苦悩が、このポスト・モダン的な博物館の外観に現れているのではないだろうか。
●豪州国立博物館(The National Museum of Australia)
Lawson Cresent, Acton Peninsula
GPO box 1901, Canberra City, ACT 2601
e-mail:information@nma.gov.au
phone:1800-026-132
group bookings:02-6208-5345
open 7 days 09:00-17:00(except Christmas day)
●2、エンズリー山からの展望
ハイアット・ホテルのアフタヌーン・ティー(コーヒーショップ)で昼食をとった後、午後は北東部のエンズリー山(Mount Ainslie)山頂の展望台に向かった。
エンズリー山山頂には特にこれといった建物もなく、キャンベラ国際空港(といっても「国際」がついたのは最近のことで、基本的はほとんど全ての便が国内ローカル線の航空機である)に進入する飛行機の誘導電波塔があるくらいだが、ここからの眺めもまた最高。
▲エンズリー山から見たキャンベラ南部
手前には戦争記念館と旧国会、新国会を結ぶ「アンザック・パレード」(Anzac Parade)が見え、東に目を転じるとキャンベラ国際空港(Canberra International Airport)とフェアバーン空軍基地(Fairbarn Royal Australian Air Force Base)の全景が見える。しばらく、ユーカリの森を駆け抜ける風の香りを感じながら、この雄大な景色を眺めていた。
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▲エンズリー山から見た国会議事堂(左)とキャンベラ国際空港(右)
●3、豪州式カップラーメンで夕食
さて、この日は、昼食をハイアットホテルでとったこともあり、夕食は質素に、スーパーで買った食料品で食べることにした。
この日私が購入したのは、甘いクリームを挟んだビスケットとカップラーメン。このカップメンはシンガポールの企業がタイの工場で生産したもので、豪州が如何に東南アジアに地理的に近いのかを感じさせるが、肝心の味のほうはというと、アジアで製造されたとは思われないほどのマズさ。恐らく豪州人向けの味付けをしているのであろうが、どうもラーメンというよりはスパゲッティ的なテイストで、それが日本人には馴染めなかったのだった。
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