日本の英語教育
こちらに来て、まず痛感したのは「自分は英語がしゃべれない」ということだ。もちろん来る前から分かってはいたことだが、しゃべれない現実に直面して、初めはひたすら自己嫌悪に陥っていた。せめて英語くらいしゃべれるようになって帰らなきゃという気負いもあって、いくつか ESL (English as a Second Language) のクラスに通ったが、そこで判ったのは、私と同じ様な日本人が沢山いることだった。日本国内でも英会話学校は盛んだが(バブルの後は下火になったか)、こちらに来ても、例えば私の住むブルックラインというボストン郊外の街で、地域の adult education で平日昼のクラスをとると、十数人のクラスの半分くらいは日本人が占める。どこの ESL でも共通しているのは、クラス分けのテストを受けると、日本人は大抵、中から上のクラスに入るのに、いざ授業が始まると、日本人は皆、貝のように押し黙り、日本人以外の人がベラベラとしゃべるのを聴いているという構図だ。つまり、テストで問われる文法等の知識は十二分にありながら、話すことに関しては、同程度の英語の知識を持つ他国人より格段に落ちる、ということなのだ。
なぜ、こんなにしゃべれないのだろう。もともと日本人は、人前で話す訓練を受けていないからなのか。遠慮がちだからか。

そういう ESL のクラスでは、大抵初めに自己紹介をして、何年位英語を勉強しているかを言ったりする訳だが、そうなると自分の英語を勉強してきた時間の長さと、実際にしゃべれない状態とのギャップに愕然としてしまう。数えてみれば、中学・高校で6年間。私の場合は大学で2年間は英語の授業があったので、計8年間である。8年間…。もちろん、その間毎日英語が出来るようになろうと思って勉強してきた訳ではないし、私などは、そもそも英語は苦手で避けて通っていた科目ではあったが。しかし、英語は受験科目に大抵含まれているので、日本人で受験を経験している人は、概ね受験勉強の一環として、他のマイナーな教科よりも勉強しているのである。自分だって愕然としているのだから、「英語は通算して8年間勉強していて…」と言えば、他国の人からは「えー!そんなに長く勉強しているの!」(それなのに、これだけしかしゃべれないの?)と驚かれるのがオチである。そこで、ちょっと言い訳がましく「いやー、日本では英語は受験で序列をつけるための科目だから、いい点を取れるように試験の技術を磨く勉強をするのであって、話せるように勉強しているのではない…」とかなんとか、たどたどしい英語で説明してみるのだが、下手な英語で説明している事以前に、この理屈は、日本人なら分かっても、日本人以外には理解できないものである。

そう、よくよく考えてみたら、おかしいのである。高校進学率が90%を超えている日本では、今や、殆どの人が中学・高校合わせて6年間も英語を勉強しているのだ。それなのに、こうやって、満足に言いたいことも英語で言えないなんて、日本の英語教育はそもそも間違っているのだ!何のために、義務教育の中学校から国家の予算も使って英語を教えているのか。それが実際の役に立たないのなら何の意味があるというのか。国を挙げて受験のためのモノサシを作っているだけではないのか。確かに、昔は英語を勉強したって実際に使うチャンスのある人は少なかったから、使えない英語教育でも問題はなかったかもしれない。しかし、時代は変わったのだ。日本人は、毎年百何十万人と海外へ旅行し、海外に在住して勉強したり仕事をしたりしている人も沢山いる。英語が母国語ではない人同士の会話でも英語が話される現在、英語は学力を比べる為のモノサシとして以前に、日本人以外の人とコミュニケーションをはかる手段として学ぶべきものなのだ。

初めは自分の英語のしゃべれなさに自己嫌悪陥った私だが、見回せば、私の回りにいる在米日本人は、程度の差こそあれ、皆英語に不自由を感じて生活していることに気付き、これは、私だけに限った問題ではなく、日本人の、日本の英語教育の問題なのだと信じるに至った。何年間も勉強しても、実際の役に立たない英語教育。中学・高校合わせて6年間も英語を勉強しているのに、巷には英会話学校が溢れている現状。そして、間違った英語教育の被害を被っている日本人自身が、日本の英語教育は受験英語だからと、日本人にしか通用しない理屈で現状のオカシサを容認してしまっている現実。異常である。間違っている。日本人にとって英語を不自由なままにさせておく為の、国家の陰謀かと思えてくる。いや、その効果からいえば、これはあながち冗談ではない。何故なら、英語が自由に読めて話せたら、日本人の日本を見る目は間違いなく変わるし、日本以外の国で生きていこうと思う人だってもっと増えるはずだからだ。日本は、黒船により鎖国を解いたが、言語によって、今もある意味では鎖国を続けているといっていいかもしれない。

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