私は、おそるおそる教室のドアの前で立ち止まった。
どうしようかなぁ‥‥‥‥授業中に抜け出したりしたの初めてだもんね。
それに、あんなに大騒ぎして出てっちゃたし。
はぁ、どうしてこんな憂鬱な気分にならなきゃいけないの?
すべての原因は‥‥‥‥そう、こいつだ!
「ねぇ、「あの、僕が先に入ろうか?」」
「えっ?」
「だって、ぼくのせいで授業さぼらせちゃったんだし‥‥‥」
私が思っていたのよりいい人なのかも‥‥‥
それに、もしかして私を気遣ってくれてるのかしら?
う〜〜ん、こういうのも悪くないかも。
となりのトリオ Walking:04 まさか!
「ねぇ、途中から入るのって恥ずかしいから‥‥‥」
「えっ?」
「だから‥‥‥‥このままさぼっちゃおうよ!」
「でも‥‥‥」
「いいじゃない、偶には」
「た、偶にはって、今日転校してきたばかりなんだけど」
「だ〜〜れのせいでこうなったのかしら」
「わかったよ。ぼくのせいです」
「ありがと」
「‥‥‥はぁ〜〜」
すっご〜〜く、いい感じ。なんかどきどきする。碇くんはなんかあんまり気が進まなさそうだけど。
葛城先生に怒られちゃうかもね。でも碇くんが何とかしてくれるよ、きっと!
「ねぇ、どこに行こうか?このまま、ここにいたら先生に見つかっちゃうよ」
「そうねぇ、そうだ、街を案内してあげる」
「え、でも学校から抜け出したらばれない?」
「へへ〜〜ん、大丈夫。鈴原くんに教えてもらった抜け道があるから」
「すずはらくん?」
「あっ、さっき教室にいたジャージの子」
「ああ、そういえば一人だけジャージの子がいたなぁ」
「うん、だからいきましょ」
それから私たちは校舎裏に回った。そこは売店用の搬入口で、校舎のなかからは死角になっていてどこからも見えない。
私たちは小走りで駆けていった。どこいこうかなーっと。なんか小学生に戻った気分!わくわくしちゃう。碇くん、走るのおそいなぁ。どうしたんだろう。
私は後ろを振り返る。いない、碇くんがどこにも。あっ!
敷地を出てすぐの所にミサト先生に捕まった碇くんがいる。ミサト先生はうれしそうにこっちを見ている。はぁ〜〜、逃げ切れたと思ったのに。
どうしようもないので私は渋々2人の所へもどっていった。
「あら残念ね、せっかくの駆け落ちが」
駆け落ち‥‥‥私と碇くんが‥‥‥‥
「な、なんてこと言うんですか、ミサト先生。私と碇くんはただ‥‥その‥‥、それより今授業中ですよ、いいんですか」
「へぇ〜〜あなた達は?」
「あ、はははは。さっ、授業に戻りましょう、先生」
「その必要はないわ」
横からお姉ちゃんが現れた。なんでお姉ちゃんまでここにいるんだろう。
「「えっ」」
私と碇くんの声、見事にシンクロしていた。なんかちょっとうれしいな。
「あ、綾波が二人?」
「あら、シンちゃんは知らなかったの?双子なのよ、この子たち。」
「そうだったんですか。それよりなんですか、その『シンちゃん』っていうのは」
「ああ、そのこと。シンジくんだからシンちゃん、別におかしくないと思うけど」
「はぁ、そういうもんですか」
「そういうことでよろしくね、シンちゃん」
「綾波までなにを言い出すんだよ」
「いいじゃない、それより、その必要はないってどういうこと」
「ああ、それなんだけど冬月先生が家に帰るようにって連絡あったの」
「なんで、おじいちゃんが」
「さぁ、よくは知らないけど私とシンちゃんも来るようにって。あとで洞木さんたちも来るわ」
「なんで、碇くんも」
「あなたは何も知らないのね」
「なにも知らないって、なにを知っているのお姉ちゃん」
「まぁ、行ってみればわかるから」
ミサト先生はそういうと素早く車を取りに行った。
「気持ち悪い‥‥‥」
「がまんなさい、男の子でしょ」
「大丈夫?碇くん」
「うん、なんとか」
我慢しなさいって、こんな運転に慣れろっていうほうが無理よ。私も気持ち悪くなってきた‥‥‥‥
「さぁ、着いたわよ」
やっとの思いで窓の外を見るとそこは、もう見慣れた景色、私のうちの前だった。は、早い。学校を出て1分10秒!もう着いている。
私は車を降り玄関に向かった。その横に見慣れないトラック。いや、以前見たことある。どこだったかなぁ‥‥‥
「あっ、父さんのトラックだ、もう帰ってるのかなぁ」
ああ、それだ。碇くんがのってたやつだ。このトラックのお陰で出会えたんだよね。つい昨日のことなのに妙に懐かしいわ。なんか、ふしぎだなぁ‥‥‥‥
「へぇー、三菱キャンター2トンタイプね」
私が感傷に浸っているとミサトはトラックを見聞している。なんでああも車が好きなんだろう、運転は荒いし。それよりなんでこんなとこにいるんだろう。まさか‥‥‥‥ま、そんなことないよね、たぶん。
「どうしてここに碇くんのお父さんの車があるの?」
「うち、ここなんだ。なんでも父さんの大学の時の先生から借りてるって言ってたけど」
驚いた。碇くんが指さした所は私のうちの離れだった。わたしの予感はあたっていた。大学の先生というのはおじいちゃんのことだろう。
「うちはそこ」
「えっ」
私は、お店を指さした。碇くんは驚いて顔の表情が固まっている。
こんな顔もいいなぁ。子供みたい。
昨日おじいちゃんと飲んでいた人が碇くんのお父さんだったんだ。あの感じ、笑ったときの表情が一緒なんだもの。
「V型8気筒、ツインターボ搭載のGDIじゃない。これは相当手をかけてるわねぇ」
「この車の良さがわかる人間がここにいるとはな」
「はじめまして、担任の葛城です。いい車ですね、これ」
「君の噂は聞いている。なんなら今度乗ってみてもかまわん」
「ほんとですか?ありがとうございます」
「ああ、問題ない」
ミサトは感動してめをうるうるさせていた。それにしても、お姉ちゃんは碇くんが隣に住んでいることしってたのかなぁ。
「何をしてるんだね、早く中に入らんかね」
おじいちゃんが出てきた。お姉ちゃんが中に入る。わたしもそれにつられて入っていった。