第3話 死、その瞬間‥‥‥
第3話 死、その瞬間‥‥‥
非常召集、先、行くから。
どうしてそういうこと言うの?
あなたは死なないわ。私が守るもの。
ごめんなさい、こんなときどういう顔していいのかわからないの。
そう、よかったわね。
‥‥‥ありがとう
・
・
笑えばいいと思うよ。
よかった、綾波が無事で。
・
・
いえ、知らないの。たぶん私は3人目だと思うから。
・
・
眩しいくらいの月明かりにシンジは目を開ける。
「綾波‥‥‥」
そう呟くと月の方を見る。眩しさに目を細める。だが、まだ月を見ていた。眩
しいが、次第に穏やかな心地に見舞われる。月に惹かれているような錯覚に陥
る。この感じ、誰かに似ている。‥‥‥以前から知っていたような、なつかし
い、でも記憶に新しい、‥‥‥誰だろう?忘れてはいけないような気がする。
思いださなければならない。月、あそこに知り合いなんかいたかな?そうじゃ
ない、月じゃない。あの感じどこかで‥‥‥‥
次第に意識がはっきりとしてくる。自分は今、月を眺めていることに気付く。
この感じ、エヴァに乗って気を失った時と似ている。なんだろう、頭に引っ掛
かる。さっき、大切なことを置いてきたような気がする。なんだ、この感じ、
頭のなかが震えているようだ。なにかが頭のなかに流れこんでくる。これか、
‥‥‥さっき‥‥‥考えてたことって‥‥‥
意識が深い闇のなかへ吸い込まれていくのと同時に体が重くなり、沈んでいく
ような感じに捉われる。そして、そのままシンジは夢の世界へ戻っていった。
チュンチュン、チュンチュン
あれだけの戦いが何度も繰り広げられていたというのに鳥だけはいつも通りに
朝の到来を伝えてくる。普段はそれに呼応しペンペンも泣くのだが、今は大事
をとって疎開中である。もっとも、ミサトは仕事上作戦部長としてここを去る
わけにいかない。そこで信頼できる人と聞かれ、シンジが答えた委員長−桐木
さんに頼むことにした。彼女やケンスケたちクラスメイトは第2東京市に疎開
している。かつて、第3新東京市に住んでいた人の2分の1以上が流出してい
た。それでも、まだ大多数の人が残っているのはネルフ関係者が多いからだろ
う。だが、子供はほとんど避難していてここにいるのはわずかしかいない。そ
の一人碇シンジは鳥のさえずりに目をさます。眠そうな目をこすりながら‥‥
横を見るとミサトが寝ていた。やさしそうな寝顔ではあるが時折苦しそうに眉
間にしわを寄せる。その様子を見ているとミサトも目をさます。
「おはよ、シンちゃん。どうかした?」
「へっ?」
「私の顔になにか付いてるのかしら?」
ミサトは含み笑いをしながらシンジに訊ねる。
ミサトの意図とは異なり、シンジは真剣に答える。
「‥‥‥はい、ボタンの跡が額に」
「う、うそ。あらやだ、本当だわ」
ミサトはシンジをからかうつもりだったらしいが、シンジに指摘され自分の顔
を鏡で確認してがっかりしている。その部分を擦ったり、つめったり、ひっぱ
たりしている。その様子をみていつのまにか笑っていた。そう、心から。やっ
ぱりミサトさんはミサトさんだなぁと改めて関心しながら。なぜか心から体ま
で軽くなったような気がした。シンジの笑顔に悪気はなかったがミサトは頬を
膨らませていた。が、ミサトもすぐ笑いだした。葛城家はしばし笑い声に包ま
れていた。
ここはどこ?
わたし、あやなみれいのなか
あなたは誰?
碇‥‥‥司令?、この人知ってる。
違う、この人に似てるけどこの人と違う人を知っている。
あなたは何を願うの?
わからない。
そう、でも違うわ。わかってるはずよ。
わからない
あなたは何を願うの?
忘れた
どうして?
知らないもの
『なんか、お母さんって感じがした』
この感じ‥‥‥知ってる。
そう、わかるのね
ええ、でも‥‥‥
『綾波っ』
『‥‥‥‥』
『よかった、綾波が無事で』
『‥‥‥‥』
『あの、父さん来てないんだ』
『‥‥‥‥』
父さん‥‥‥碇司令。この人は碇司令の息子?
そう、大切な人
大切な人‥‥‥碇司令の息子‥‥‥碇‥く‥ん。
そう?、いかりくん
碇君‥‥‥この言葉、なつかしい、忘れてはいけない、大切な言葉。
ほんとにたいせつ?
ええ、‥‥‥言葉じゃない、大切な言葉、碇君にもらった大切な言葉。
ことば?
大切なのは碇君、大切な言葉は‥‥‥
『ありがとう、助けてくれて』
これもそう。でもそうじゃない。もっと大切な‥‥‥
あなただれ?
私、綾波レイ‥‥‥‥
・
・
「ここは‥‥‥私の部屋?」
「頭が痛い、なぜ?」
「なにか大切なことが、頭から消えていった」
「大切なモノ‥‥‥」
「ミサトさん、ご飯できましたよ」
「そう、ありがと。ん〜、いい香ね」
「わかります?今日の味噌汁はミサトさんの好きな麦みそにしましたから」
「ほんと、気が利くわね、シンちゃんも」
「そんなことないですよ」
「どうやら決心は着いたようね」
「はい、僕に今やれることをやります。『僕にしかできないこともある』そう
言ってた人がいました。その時はわからなかったけど、今は、少しだけ真実に
近付けたと思います」
ミサトは『真実に近付く』という言葉を聞いてはっとした。ミサトも知ってい
る。そう言っていた人がいたことを。それでも、顔には出さず明るくシンジに
声をかける。自分の心にも呼び掛けるように‥‥‥‥
「がんばってね、私もできるかぎりのことはするから」
在り来りの文句ではあったが、十分にシンジを元気づけたようだった。シンジ
は言葉のなかに『暖かさ』というものを受け取って‥‥‥‥
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