朝日が燦々と降り注いでいる。その抱擁のなかに一人の少年がいる。よく見る
と水をやっているようだ。大地に、お天道さまの恵みを受けて育つ西瓜に。西
瓜、セカンドインパクト以降日本は常夏の島となり年中栽培できるようになっ
た。そう、ここはかつて加地さんが耕作していた畑だ。
加地さんは死んでしまったってミサトさんが言ってた。でも、そんな気は全然
しなかった。あの人は、加地さんは僕の父さんみたいなものだった。何でも相
談できた。それはミサトさんも同じだった。そして、笑いながらいつも答えて
くれた。笑いながらといっても嫌な笑いではない、遠巻きに微笑むって感じだ
った。あの人のそんな態度嫌いじゃなかった。僕は真剣な顔で意見を求めてい
た。だから、あそこで笑って答えてくれる加地さんに救われていたような気が
する。その辺がミサトさんとの違いだ。でも、ミサトさんにもミサトさんのい
いところがたくさんある。
僕は加地さんに頼まれた畑の世話をしていた。いろいろ、考えながら‥‥‥‥
加地さんがまた帰ってきたときのために‥‥‥‥
そそぐ風に、しばらく、身を任せていた。ジョーロの水がなくなる。そして、
僕は決意した。ゆっくりと歩いていく、郊外のある一角へ向けて‥‥‥‥
カタン、コトン、カタン、コトン
ここではいつもと同じように工事が行われてる。そう、以前と同じように。無
機質な部屋の中に一人の少女がいる。いつもと同じようにベッドに俯せた空色
の髪の、紅い瞳の少女が。
「‥‥‥来る」
そして、少女は体を起こした。感じていた。自分を知っているが自分は知らな
い人。そう、サードチルドレンが近付いているのを。
− ネルフ本部セントラルドグマ −
「どういうことだ、なぜレイのダミーが破壊されている」
「それについては現在のところ調査中です」
「ああ、当然だ」
「MAGIのレコーダーに何者かが侵入した形跡がみられます」
「MAGIは侵入を見過ごしていたというのか」
「いえ、新種のプログラムといいますかウィルスを使用した模様です。MAGIが
ウイルスの侵入を発令所に伝達する、その一瞬の隙をねらったシステムです。
本体の侵入前に偽のダミーを流し、その間にもう一つのダミーを流す。MAGIが
一つ目のダミーを感知、処理する過程を逆ハックしそのデータを、MAGIと発令
所の端末との回線が解放する一瞬の隙にそのデータを外部に発信、その後2つ
目のダミーを処理する間にデータを送信したウイルスは自己消滅。そして痕跡
はなにも残りません」
「そのデータを用いてMAGIの自己防御システムを解明、本体の本部内侵入とい
うわけか」
「はい、おそらくは。MAGIによる演算速度から予想される処理速度はおよそ10
のマイナス24乗秒ほどです。この時間内にこれだけの処理ができるのはMAGIク
ラスのコンピュータのみ。ドイツ、松代、米国第一支部辺りが有力だと思われ
ます」
「そうか、わかった。引き続き調査を頼む」
「で、MAGIの方はどうするのだね」
「そちらの方はすでに手を打ってあります。侵入したプログラム及び予想され
うる同様なウイルスに対しての防御プログラムを入力済みです。さらに、今回
の急所となった伝達系も手を加えてあります」
「わかった、そのことは君に任せよう」
「はい。それとおもしろいことがわかりました。自己消滅したウイルスですが
その一部がMAGIに侵入、共生をはかった模様です。すでにサンプルを入手、残
りは消去しましたが‥‥‥‥これです」
そう言ってリツコは数枚の資料を指令に手渡す。それを横に立っていた冬月も
覗き込む。資料をみていた冬月はリツコに訪ねる。
「これはほんとなのか」
「はい、間違いありません」
「そうか。しかし連中の目的はいったい何なんだ。どう思う、碇」
「わからん。だがこれが重要な問題だというのは間違えない」
「ああ」
− 先刻と同じく加持の畑 −
ミサトもシンジと同じように加持の畑にきていた。シンジはもういない。レイ
の元へと向かっていた。しゃがんで加持の育てていた野菜を見つめている。ま
るで、やさしい寝顔をした子供を見るかのように‥‥‥そして不意に覚悟を決
めた顔になる。
シンジくんも、今、自分にできることをやっているんだわ。自分なりに考え、
悩んで‥‥‥まだ、子供だというのに。私たちはそのことを忘れてはいけない
んだわ。私は自分の復讐のためだけにシンジくん達を利用して‥‥‥そのおか
げでレイやアスカがあんなになって‥‥‥またシンジくん達を悲しませる。こ
んなの、もう嫌だわ。‥‥‥‥‥‥‥‥加持の言ってた通りかも。
私も自分にしかできないこと、それをやらなくっちゃいけないのね‥‥‥‥
シンジがドアのノブに手を掛ける。しばらくためらっていたがドアを開ける。
「綾波、入るよ。ぐっ‥‥‥」
ドアを開けた部屋のなかに入ろうとした瞬間シンジは後頭部に鈍い痛みを感じ
た。もう一人の男が素早く中へ入る。そしてレイをつれ去ろうと近付く。レイ
は玄関で気絶しているシンジを見つける。普段のレイなら、知らない人物が近
付いてくればわかったはずだが今回は他のことに集中していたのでわからなか
った。レイも男たちに取り押さえられる。マンションの裏口には車が2台控え
ている。二人は車のなかに押し込まれる。
そのとき、レイと隣り合わせになったシンジから淡いオレンジ色の光が発生す
る。次の瞬間、二人の乗った車が爆発、炎上していた。
「ATフィ−ルド!」
レイは思い出したように呟く。二人のまわりはシンジの作り出した光線で守ら
れなんともない。シンジは気を失ったまま、レイは驚いていた。
私は力を使ってない。でも、どうして‥‥‥まさか、この人が‥‥‥ならこの
人は私と同じなの?この人‥‥‥碇君‥‥‥でも‥‥‥
そこでレイは考えを中断した。誰かが近付いてくるのを感じたから。しかし、
近付いてきたのは諜報部の者だとわかり気を緩める。
「大丈夫ですか」
「ええ」
「申し訳ありません。部内に内通者がいた模様です」
「そう」
「怪我は?」
「問題ありません」
その男は無言で頷き一報を入れている。
「ファーストチルドレンは特に問題なし。サードチルドレンは気を失っている
模様。これより本部へ搬送します」
「その人は私が面倒を見るわ。だから大丈夫」
「しかし‥‥‥」
『問題ないわ、レイの言うとおりにしてあげて』
「いいんですか」
『ああ、かまわん』
「し、司令‥‥‥わかりました。私どもはこれより、後始末に着手します」
『わかった。よろしく頼む』
「はい、それでは失礼いたします」
そう言って、相手が切ったのを確認してその男も携帯を切った。
「運びましょう」
そういって横にいたもう一人の男に声をかけシンジを持ち上げる。
そのままレイと一緒にレイの部屋へ向かっていった。
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