ルリ、心の向こうで −第4話−

アキトのエステバリスはまだ発進していない。
 
「なにバカやってんだか‥‥」

その様子をつぶやきながら見ている1人の少女の姿があった。
 
(でも、なんで私ここにいるんだろう。

 アキトさん、ここにいるってわかったら足がここへ向かってた。

 なぜアキトさんがここにいるってわかったんだろう。

 どうしてだろう‥‥、私どうすればいいんだろう‥‥なんかとてもせつない‥‥)
 
 
 
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       Martian Successor 機動戦艦ナデシコ外伝
        N A D E S I C O  『ルリ、心の向こうで』
  
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          −第4話− 『孤立−チャンス到来』 
 
 
 
 
アキト、ブリッジと話している。

「エステ動かないんすけど?」

「どういうこと?さっきまで動いてたじゃないの」

イネス・フレサンジュが怪訝そうに訪ねる。

「いや、それが急に動かなくなっちゃって‥‥」

「こちらのプログラムに異常はないわね。ちゃんと 発進 になってるけど。まさか、思兼が‥‥」

会話を聞いてたミナトが

「大丈夫よ、ルリルリがそっちへ向かってるはずだから」

「あれ、そういえばルリちゃんいなくなってるわねぇ」

ゲキガンガーのマスコットがおかれているルリの席を見ながら答える。

「ずっるーい、ルリちゃんばっか抜け駆けして。さっきだって‥‥」

「しょうがないじゃない。艦長はコンピュータなんてわかんないでしょ」

ミナトがルリをかばっている。

「でも‥‥」

「まっいいじゃない、ルリルリに任せとけば」

「そうね、あの子なら大丈夫でしょう。私もここを離れるわけにいかないし、

 セイヤさんは相転移エンジンの起動準備中で手が放せないだろうから」

「わかりました。それじゃあなんとかやってみます」
 
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操縦席から外を見回してたアキトは、格納庫の隅でルリを見つける。

「あ、ルリちゃん来てくれたの」

「えっ、あ、はい‥‥」

(来てくれたの?って、アキトさん私が来るのわかってたのかなぁ。どうしよう‥‥)

立ちつくしたままのルリにアキトは話しかける。

「さっそくだけど、どうして動かないのかわかるかなぁ」

「えっ?」

「エステバリスだよ。調子見に来てくれたんじゃないの?」

そのとき、ルリの腕についている発信器から声がした。

「アキトのエステバリス調子悪いらしいのよ。それで、ルリルリが見に行っ

たってことになってるから」

「ちょっと、ミナトさん?‥‥」

「それじゃあがんばってね」

(わたし、どうすればいいんだろう‥‥)
 
そしてアキトの方に近づいていく。

「とりあえず見てからでないと」

そういってアキトのところまであがってきた。

「乗りますよ。いいですか?」

「あ、うん、どうぞ」

と言ってルリに手を伸ばす。

ルリも顔を真っ赤にしてアキトの手を取り操縦席にはいる。

そしてエステバリスとのリンクを試みる。

しかし、動かない。

「どうなの、ルリちゃん」

「もうちょっとまってください」

どこからともなくキーボードを取り出しエステバリスのコネクタとつなぐ。

そしていろいろうちはじめた。

「アキトさん、もう一度動かしてみてください」

「わかった。‥‥‥‥おっ、動いた。ありがとうルリちゃん」

「いえ、けれど」

「なに?」

「なぜかアキトさんのエステバリスだけIFSインターフェンスが完全に作動

 していないので予期せぬ事態が生じた場合停止する可能性があります」

「ていうことは、今出ると危ないっていうこと?」

「そうなりますね」

そしてアキトはブリッジを呼び出した。
 
けれど、ブリッジの方はそれどころではなかった。

チューリップが出現、続々と敵の無人兵器が吐き出されていく。

ナデシコは四方を囲まれていた。

ディストーション・フィールドが展開されていない今攻撃を受ければたいへんなことになる。

一応、主要各所は瓜畑の開発したディストーション・ブロックで守られてい

るがエネルギー供給が完全ではない今、100パーセント大丈夫ではない。
 
「どうしたの?アキト君」

イネスがたずねる。

そしてことの次第をイネスに話すルリ。

アキトには専門用語が多すぎその会話をほとんど理解してない。

「大体わかったわ」

「それじゃあさぁ、ルリルリがアキトと一緒に行けばいいじゃない。

 思兼が使えない今オペレーターとしての仕事はあんまりないし」

ミナトが突然会話に入ってくる。

「それは、そうですけど‥‥」

頬を赤くするルリ。

(どうしよう‥‥)

「わかりました。それじゃあ、やってみます」

アキトがそう答えたとき、瓜畑が通りかかる。

「どうしておまえばっか、あんなかわいい子供まで」

「案外、ああいうやつほどいろんな世代に受けるんですよ」

整備班の男の一言に切れる瓜畑。

「うっさーい、うらやましいやつめ」

「わたし、子供じゃありません。少女です」

ルリが突然つぶやく。

瓜畑たちは唖然としている。

「ま、まあそうだけどよ」

ルリの迫力に押される瓜畑。

「仕事、仕事」

そういって格納庫を去っていった。

 
「よーし、テンカワ機発進」

そうして、出撃していった。

そして、ブリッジではユリカが出撃したアキトに指示を出していた。

リョーコたち4機のエステはナデシコから離れすぎ通信不能となっている。

「アキト、囮になって敵を前方に集めてちょうだい。

 こっちは相転移エンジンの始動とともにグラビティ・ブラストで殲滅するから」

「わかった。けどすごい敵の数だな」

ルリは赤い顔を隠そうとさらに赤くなっていた。

通信は無線以外使えないので映像は出ない。

しかし、そんなことも忘れてしまっているルリであった。
 
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(アキト、あなたを死なせはしないわ)

そして、真剣な眼差しのユリカ。

そのとき、約一名燃えている男がいた。

(ユリカ、副長として艦を守るのは当然のつとめだ。

 しかし、それ以上にユリカ、きみを守りたい。

 そして‥‥‥‥。

 それにここを逃すとまた出番ないからな)

「ユリカ、僕も行くよ。今、力になれるのは僕しかいない」

「ありがとう、ジュンくん。アキトを助けてくれるのね」

「あ、ああ」

「これからも、ず−っと私の大切なお友達だよ」

(ずっと、お友達‥‥、喜ぶべきかそうでないのか‥‥。

 そんなことはどうでもいい。

 今はユリカを守ることだけを考えなければ。

 そうすれば、いつかきっと‥‥)

「それじゃあ行って来るよ」

「アキトのことよろしくね」

ここでがくっとくるジュン。
 
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「くっそー」

アキトは必死に戦っていた。

しかし、いくら攻撃しても後からまたやってくる。

そのとき、ジュンのエステバリスが発進してきた。

「誰だろう。もうパイロットはいないはずなのに」

「アオイさんのようです」

「ジュンか‥‥」

 
(ユリカ‥‥、見ていてくれ‥‥)

「うわー」

発進してすぐのところで敵の体当たりを食らう。

そして吹き飛ばされていく。

「誰か助けて‥‥」
 
「後方より敵接近してきます。信じられません。こんなスピード」

ルリがアキトに伝える。

「わかった。これをまともにくらったらただじゃすまない」

そしてアキトがよけようとすると

「だめです。後ろにはナデシコが‥‥、まだフィールドを張っていません」

「くっそー、止めるしかないか」

「あれは、エステバリス?アオイさんの」

「なに、ジュンがどうしたの」

「アオイさんのエステバリス蜥蜴にコンピューター乗っ取られています」

「どうすればいいんだ」

「だめです、間に合いません」

アキトとルリの乗ったエステバリスはその衝撃でとばされる。
 
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「テンカワ機、エネルギー供給範囲外へ進行中」

そのメッセージが届くときブリッジではアキトたちを、見失っていた。

「アキト‥‥」

「どうなってるんですか、アキトさんいきなり消えちゃうなんて」

「アキト、無事でいてよ」

「アキトさん‥‥」

メグミと、ユリカが交互につぶやく。

「しかしですねぇ、今彼らを迎えに行くのは大変危険です。

 ここは、ルリさんに任せましょう」

「そうね、プロスペクターさんのいうことにも一理あるわ。

 今、ここで動けば敵の餌食になってしまう。

 それに、まず彼を助けないと」

前方にはあちこち飛び回っているジュンが視認できる。

「そんなことはどうでもいいのっ、それよりアキトのことが」

「そんなことって艦長アオイさんのことほっといて大丈夫なんですか」

そんなとき、ナデシコに衝撃がくる。

「何かあたった?」

「アオイさんのエステバリスがぶつかったようね」

そういってイネスは出ていった。

 
「けどずいぶんとやられたわね」

「‥‥‥‥」

エステバリスはナデシコに追突した衝撃で大破していた。

そしてその衝撃でとりついていた蜥蜴もたおされていた。

「なに?」

「‥‥‥‥」

「あ、ブロックサインね。なになに、うんうん」

そして、医療室へ運ばれていった。

(また当分出番なしだ。ユリカー)

「艦長、伝言よ」

「ジュンくん大丈夫ですか」

「ええ、けどぶつかったときの衝撃で鞭打ちになってるから当分しゃべれないわよ」

「がんばってね、ジュンくん」
 
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「くそー、テンカワのやつ大丈夫かな」

「ちょっとリョーコ。

 やっとナデシコと連絡とれたんだけどアキト君いなくなっちゃったんだって」

「いなくなったってどういうことだよ」

「それがよくわかんないんだけど、なんかルリちゃんと一緒にいなくなったらしいよ」

「相手はあまりにも若い。

 若いが故、世間の目が気になり、たまらず駆け落ち。

 どうするのリョーコ」

「うっさい、イズミちょっとだまってろ」

「ぬふふふふ」

「な、なんだよ。そんなわけあるわけ‥‥、敵だそうだきっと敵にやられたんだ。

 急いで助けに行かないと」

「気になる?」

「ばかっ、そ、そんなんじゃねーよ。

 仲間がやられてるっていうのにほおっておけるか」

「てきねぇ、確かに新たな敵が現れたかもね」

「な、なにいってんだよ。てめーらはナデシコを頼むぞ」

「でもどうやっていくの、エネルギー供給範囲外だよ」

「な、なにー」
 
 


 
(やっぱりばバカばーっか、ったくなにやってんだか)
 
 








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