−第5話− 『彼女たちの戦争』がはじまる

「アキト‥‥」

(あなたは私の王子様なんだから)

「アキトさん‥‥」

(‥‥‥‥‥‥)

「艦長もメグミさんも何の心配してるの。

 今どういう状況だかわかってんのかしら、まったく‥‥」

「ほぉ、会長秘書も‥‥。うらやましい限りですねぇ、彼は」

「そーとも限んないじゃない、相手がこれじゃ」

「これってなによ、ハルカさん。プロスペクターさん、何が言いたいわけ」

「いえ、わたくしは別に何も」
 

 
   (バカばっか、ったくなに考えてんだか)
 
 
 
     ――――――――――――――――――――――――
 
       Martian Successor 機動戦艦ナデシコ外伝
        N A D E S I C O  『ルリ、心の向こうで』
  
     ――――――――――――――――――――――――
 
         −第5話− 『彼女たちの戦争』 が始まる 
 
 
 
「ここ、どの辺だろう」

「わかりません。

 けれど、ナデシコ戦闘空域で敵の攻撃を受けた時点からの経過時間、

 移動速度から考えるとちょうど月の裏側だと思われます」

「そっかー、でもこれからどうしよう」

「そうですね、エネルギーを最小限に抑えてあと3時間しか持ちませんから。

 それまでにナデシコが来てくれるかどうか‥‥」

「すごいね、ルリちゃん、いつも冷静で」

「そうですか」

「うん、ユリカなんかと比べたら断然大人ってかんじするよ」
 
赤くなるルリ。
 
「でも、艦長スタイルいいですよ。わたしなんかより」

「そういうもんじゃないと思うよ」

「そうですか、でも男の人は女性を選ぶとき顔やスタイルで判断するそうですが」

「どうしてそう思うの?」

「ビデオでみました」

「そ、そう。それもあるかもしれないけどやっぱり大切なのは中身だよ」

「どういうことですか?」

「そうだなぁ、心のきれいな人 かな」

「それ、どういう人ですか?」

「うん、なんていうか口で言うのは難しいんだけど」

「うそをつかない人」

「うん、それもあるね。

 けどそれだけじゃない、人を思いやる心がある人とか。

 それと、尊敬できる人」

「艦長はそうなんですか?」

「ん、ユリカ。あいつはそうだなぁ」

「違うんですか?」

「あいつは尊敬できるところもあるよ。

 小さい頃、俺が落ち込んでいたらいつも励ましてくれてた。

 いつも元気で、いまもそのまんまだけど。

 けど、もう一つ重要なことがある。料理がうまい人でないと」

「そうですか」

「なんの話してたんだっけ」

「さぁ、忘れてしまいました」
 
覚えているが、あえてルリは言わなかった。

そしてルリは複雑な顔をしている。

なにか、いろいろ考えているようだ。
 
しばらくしてアキトがルリにたずねた。
 
「ルリちゃんはなんでこの仕事についたの?」

「わたしは‥‥‥、ほかになにもすることありませんでしたし、施設にあまり居たいとは思いませんでした。

 そしてあるときネルガルの人が来て‥‥‥、この仕事に就きました。

 早くあそこを出たかった。

 勉強したこと以外何にも記憶に残っていない‥‥」

「ごめん、なんかつらい思いさせちゃったみたいだね」

「いえ、いいです。

 ナデシコに乗ってよかったと思っています。

 いろいろ楽しかった。

 新しい思い出もできました」

「そう」

「アキトさんはどうしてなんですか」

「あ、おれは、なんか成り行きでこうなっちゃって‥‥‥。

 ユリ、いや、コックをめざしてナデシコに乗ったのに今じゃパイロット」

「‥‥‥‥」

「中途半端だよな、なにもかも‥‥‥」

「そんなことありません。

 今はちゃんとコックとパイロットを両立しているじゃないですか」

「両立か、そんなんじゃないよ。でも、どっちも中途半端になっている。

 はじめはコックになりたかった。

 パイロットにはなりたくなかった。

 けど、今はパイロットになりたいのかもしれない」

「それでもいいじゃないですか。

 アキトさんはヤマダさんのためにパイロットを続けようと決めたんじゃないんですか。

 それは大切なことだと思います」

「‥‥‥‥、そうだった。

 戦う為じゃない。

 ガイの為だったんだ」

「人は変わります。

 けれど、変わっていくからこそ自分自身を成長させることができるんです。

 今やらなければならないことをやっておかないと、あとで必ず後悔します」

「そうだね」

「そうです」

「ありがとう、ルリちゃん」

「はい、‥‥‥‥」

(どうしてだろう、なんだかすっきりした。それに少しうれしい) 

ルリの頬はまた赤く染まっている。
 
そのときスクリーンが一つ現れた。

『いつか、忘れえぬ あの日のために 今を生きている』
 
「思兼、直ったの?」
 
それから、スクリーンは消えた。
 
「どうしたの、ルリちゃん。思兼なの、さっきのは」

「わかりません。けど、さっきのは思兼です。絶対に‥‥」
 
    - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
 
「アキトのやつ今どうしてんのかなぁ」

「やっぱ気になる?」

「うっせぇなぁ、作戦中に邪魔するな」

「アキト君とルリちゃんってどこまで進んでるのかなぁ」

「な、なにいってんだよ、ヒカル。そんなこと、あ、あるわけねぇだろ」

「リョーコ、なに言ってんの」

「へ?」

「だからぁ、今どの辺に居るんだろうって」

「な、なんだそういうことか」

「アキト、ルリの手に落ちる。リョーコ、蜥蜴に落ちる。どっかーん」

「な、なんだと。イズミー」

「ちょ、ちょとリョーコ囲まれてるよ」

「な、くっそー機械のくせに」
 
スバル機、損傷。
 
    - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
 
「相転移エンジン起動準備完了」
 
瓜畑から連絡がくる。
 
「ミナトさん、グラビティブラスト いけますか」

「ええ、いつでもOKよ。けど、出力足んないから1回きりよ」

「分かりました」
 
「こちらスバル機、作戦どおりいつでもいいぞ」

「なーにカッコつけてんのよ、動けないくせに」

「うっさいぞ、イズミ」

エステバリスから準備OKの通信がくる。

「こちらも準備完了。戦闘中域から離脱してください」
 
そして、グラビティブラストの発射準備が始まる。

もちろん、ルリはいない。

が、思兼が使えないのでイネスさんが制御している。

出力が安定しないためフィールドは張られていない。
 
状況を確認したユリカが指示を出す。

「座標確定、グラビティブラスト広域放射」

「てぇーい」
 
そして、敵、殲滅。
 
「敵、残存兵器0。

 ナデシコは損壊3ブロック、フィールドジェネレーターに異常を確認」

イネスが報告する。

「やったー。そのままアキトを救出に出発!」

「ちょっと艦長、このまま行く気?また敵に出会ったら勝てる保証はないのよ」

(すーぐアキト、アキトって。ほんとに‥‥)

エリナは怒っている。
 
「大丈夫です。信じてますから」

(アキト、待っててねもうすぐだから)
 
そのときスクリーンが現れる。

画面は荒れているが徐々に回復してくる。
 
「ちょっとアキト、なにしてんのよ」

「アキトさん、どうして‥‥」

「アキトくん、それはちょっとまずいわねぇ」

「い、いや、違うんです。そんなつもりは‥‥‥、ちょとまてユリカ」
 
そして、スクリーンは強制的に消された。
 
    - - - -   3分前  - - - -
 
(お願い、思兼、答えて)

ルリは必死に思兼とのリンクを試みている。

「ルリちゃん‥‥‥」

「さっきのは絶対思兼です。だから‥‥」
 
そして、ルリはキーボードを取ろうとアキトの向こう側へ手を伸ばす。

もともと一人乗りのエステバリスの中に二人が乗れば少しせまい。
 
不意につまづき足をとられ、そのままアキトの方へ倒れかかるルリ。

そして、振り払うわけにいかずルリを抱き留めるアキト。
 
「危なかったね、ルリちゃん。気をつけないと」

ルリの頬は紅く染まり、恥ずかしさでアキトの声は上のそらである。
 
スクリーンが現れる。

エステバリスの通信スイッチをルリが押してしまったようである。

思兼が使えないので別に意識していなかったアキトはスクリーンの中に

ブリッジの様子が映っているのに気づく。

ユリカ、メグミ、エリナの目が怖い。

ハルカはにこにこしている。

(や、やべー)

「は、ははは‥‥‥‥‥‥。

 い、いや、違うんです。そんなつもりは‥‥‥、ちょとまてユリカ」
 
スクリーンがナデシコから強制的に消される。
 
    - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
 
「エステバリス、収容してください」

「テンカワ機、発見。まもなくエネルギー供給範囲内へ突入」

ユリカ、メグミの声がつんとしている。

 
アキト以外の4機のエステバリスが帰還する。
 
 








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