ルリ、心の向こうで −第3話−
   西暦2195年、謎の戦艦が木星より飛来し、火星と月を占領
   地球は大敗北を喫してしまった。
 
   翌年、就航したのが新造戦艦ナデシコ
   人々の不安を背負って、ナデシコは 旅立つ。
 
   そして‥‥思兼、機能停止
   そんなナデシコに危機が迫る。
 
   そんな中ある者は語る、「バカッ」
 
 
 
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       Martian Successor 機動戦艦ナデシコ外伝
        N A D E S I C O  『ルリ、心の向こうで』
  
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        −第3話−『危機、蜥蜴来襲』 
 
 
 
 
しばらく、がやがやとやっていると瓜畑がやってきた。

ドアが開く。

「どーいうことなんだよ。思兼が停止したっつうのはよ」
 
しゃべりながらブリッジにはいてきた。
 
「それについて今のところはっきりしたことはわかりません」

ルリが答える。

「今、敵に攻撃してこられたらたいへんなことになりますからねぇ。

 攻撃受けたら修理代もかかりますし、思兼の修理も‥‥

 そのことを考えると頭が痛い‥」

プロスペクターは電卓をはじきながら考え込んでいた。

「というわけでナデシコを手動で、つまり人の手で動かすことになります」

ルリがみんなに言った。

(最新鋭の戦艦を手動でとばすなんてなんて‥‥、

 でもどうしてだろう思兼が止まっちゃうなんてワタシに原因があるのかなぁ?

無理な質問したからかな?‥‥‥‥アキトさん−テンカワアキト−

 私−ホシノルリ−‥‥‥‥、そういえばアキトさんまだおきてないの?)

ルリはブリッジを見回しながら考えていた。
 
そのときユリカが

「ねぇ、アキトまだ起きてないんじゃないの?

 誰か起こしに行った方がいんじゃないのかなぁ」
 
しかし誰も聞いていなかったようだ。みんなそれぞれ話し込んでいる。

ただ一人をのぞいては。
 
(艦長も同じこと考えてたなんて‥‥)

ルリは口には出さなかった。が、ユリカが

「ちょっと、艦長命令です。私の話を聞きなさ−い」
 
「なに?艦長。じゃあ言いなさいよ。聞いたげるから」

「いえ、ただアキト起こさなくていいのかな−と‥‥」

「そんなこと?」

「わ、私起こしに行ってきま−す。」

そう言ってブリッジから出ていった。

「ちょっと艦長、あなた今どういう状況だかわかってんの。まったく」

エリナがぷりぷり怒っている。

「ちょっと、艦長ずるいですよ。私も行きま−す」

メグミも出ていった。
 
ぽつりと一言

「バカばっか」

(私も‥‥‥、バカが移っちゃったみたい)

そんなことを考えながらルリは無意識にコンソールに手を伸ばす。

スクリーンが一つ現れる。

「テンカワさ−ん、もう朝ですよ、起きてください‥‥‥おーい、やっほー」

ルリの顔がアキトの顔の前でアッカンベーをしている。

「ぅわっ、どうしたのルリちゃん、こんな時間に」

「起きました?でしたら至急ブリッジにきてください」
 
スクリーンはぱっと消える。

不思議そうな顔でミナトがルリに言った。

「ちょっと、ルリルリ?通信は使えないんじゃなかったの?」

「あれ、そういえばおかしいですね。もう一回やってみましょう」

しかしなにも起こらない。

「おかしいですねぇ?さっきは使えたのに」
 
「これは私の仮定なんだけど」

イネス・フレサンジュが入ってきた。

「思兼は完全には停止してないんだと思う。プログラムを調べてきたけど

 どこにもバグはないみたい。けど‥‥」

「けど、なんです?」

ルリがたずねる。

「一時的に思兼にものすごい負荷がかかっているの。停止する20分ほど前のことだけどね。

 その後は正常に戻っているし‥‥‥」

そのときスクリーンが一つルリの前に現れる。

「あれ?ルリちゃん、どうしてだろう?
 
 それより、ドア開かないんだけど。ナデシコも止まっちゃってるみたいだし。

 それになんでルリちゃんのプライベート回線につながるんだろう?」

「テンカワさん‥‥‥」

「なに?ルリちゃん」

「あっ‥‥‥いえ、べつに」

アキトの顔に見入っていたルリは我に返ると頬を赤くして

(どうしたんだろう、アキトさんの顔を見てるとなんだか懐かしいような、

 嬉しいような不思議な感じがする)

「で、どうなってるの?」

「あ、すみません。今、思兼が機能を停止しました。

 それですべての制御がうまくいかず電子ロックが作動しないんだと思います。

 ですからカードキーではなく予備の錠を使用してください」

「ありがとう、ルリちゃん」

「いえ‥‥‥べつに」

普段の冷静沈着なルリに戻っていたが、また頬を赤らめていた。
 
「ルリルリ、アキトがでてるじゃない」

ミナトがたずねる。

「それがよくわからないんですけど、向こうからきたし」
 
「とにかく、テンカワさんブリッジにきてください」

スクリーンが消える

「ちょっと、どういうこと?通信回線が使用できるなんて」

エリナも真剣に考え込んでいる。

「たしかにおかしいですねぇ、ナデシコの通信システムは思兼を介して運用されていますからねぇ。

 重力制御もちゃんと働いていますし。

 ということは、やはり思兼は完全には停止していないと言うことでしょうか」

プロスペクターが一人しゃべっている。
 
そのとき、ドアが開く。アキトだ。

「遅いぞ、今まで何してた」

ゴートが怒り気味に言う。

「すみません」

「それよりアキトくん、さっき通信使えたんでしょ?」

イネスがたずねる。興味津々という顔だ。

「え、ええ。でもブリッジにつないだはずなのにルリちゃんのところにつながっちゃって」
 
ウィーン、ドアが開く

ユリカとメグミだ。

「ちょっと、アキト、なんでここにいるの?せっかく私が起こしに行ってあげたっていうのに」

「アキトさーん」

アキトは気まずそうな顔しながら

「いや、ただルリちゃんに起こされてここ来たんだけど」

すると、ユリカが

「ルリちゃんずるいわよ。抜け駆けするなんてー」

「えっ、そんなつもりは‥‥‥アキトさんとは何の関係も‥‥‥」

しかし、声が小さすぎたのでだれも聞いてはいなかった。

「バカッ」

小さな声でつぶやく。
 

「で?俺は何をすればいいんだ?」

話に入れずにいた瓜畑が首のあたりをかきながらたずねる。

「あなたはこれからドクターと一緒に手動での起艦の準備をしてください」

プロスペクターが答える。

「エステの準備最優先に」

ユリカがセイヤに言った。

「まかしとけぃ」

そうして瓜畑とイネスはブリッジを出ていった。
 
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ほかの人たちは用があるのか誰もいない。

今、ブリッジにはわたしとミナトさんだけだ。
 
「あのぉ、ミナトさん‥‥‥」

何か言おうとしてやめた。

しかしミナトは聞き漏らしていなかった。

「なに?ルリルリ」

「いえ、べつに‥‥‥」

「いえ、べつに‥‥‥って、そんな顔してべつにって言われてもねぇ」
 
しばらく沈黙
 
「ねえ、ルリルリ最近変わってきたね」

「何がですか?」

「いや、ただそんな気がしてきて。それに口癖も少し変わったんじゃない?」

「えっ?」

「いや、だからー、前は バカばっか しか言わなかったじゃない。

 それが最近少なくなってきたみたいだし。

 それに、きれいいになったわよ、なんだか」

「本当ですか?」

「本当よ。なんだか恋する乙女みたい」

「恋する乙女?」

「思兼にもそういわれました」

なんだか悲しそうにつぶやく。
 
「好きってどういうことかわからないんです。

 それに愛するってことも‥‥‥親なんていませんでしたから。

 施設にいたときは3Dフォログラムで作られたものが ちち と はは だと思って育ってきましたから‥‥‥」

「大丈夫よ、ルリルリそのうちルリルリにもわかる日が来るわ。

 それに、ルリルリとアキトって赤い糸で結ばれているんじゃないのかなぁ。

 さっきだって二人っきりでいい感じだったじゃない。案外いいカップルになるかもよ」

「そんな、でも私少女だし‥‥‥」

(アキトさんこんな子供みたいなのいやなんじゃないのかなぁ?)

「年なんて関係ないって昨日いったでしょ。それに‥‥‥」

「それに?」

ミナトは楽しそうに

「さっきの発言はアキトのことが好きって認めたんじゃないの」

「そ、それは‥‥‥」

ルリの顔は真っ赤だ。

ミナト嬉しそうにそんな様子を見ていた。
 
「ビー、ビー、ビー」

警報音が鳴り始めた。

「どうしたの、一体?」

ミナトは心細そうに言う。

ドアが開きみんな入ってくる。

「前方より敵接近中。エステバリスの発信準備はできたわ。

 すぐにブリッジに行きます」

アナウンスが流れる。声からするとイネスさんだ。

アキトたちパイロットも全員集まっていた。
 
ドアが開き瓜畑とイネスさんがやってきた。

「エステ、乗れるんすか?」

アキトがたずねる。

「ええ、エネルギー供給はできる。でもコンピュータがねぇ」

「大丈夫だって。技術部が責任を持っていうぜ」

瓜畑が答える。

「そうね、エステバリスはセイヤさんの作ったプログラムで制御するわ

 大丈夫よ、ずっと前から思兼を見ながら作っていたそうだから」

「こんなときのために、こんなときのために、前からこのせりふ言ってみたかったんだよなー」

「それではエステバリス隊発進。瓜畑さんはナデシコ起動の準備を続けてください」

ユリカが命令を下す。
 
「よーし、いくぞおめーら」

「ほんとにだいじょうぶかなぁ、エステちゃん」

「死んだら瓜畑を恨めばいい、でもって瓜畑のセイヤ‥‥、くっくっく」

「かってに死んでろー」

リョウコがつっこみを入れる。
 
「おいテンカワいくぞ」

「ちょっとまってくれよ、なんか動きが悪いんだよー」

「僕には声かけてくれないのかい?リョーコくん」

「そんなんどでもいいんだよっ。いくぞ」

「これいやなんだよな」

「ぐずぐず言うな、スバル機マニュアル発進」

「よーし」

4機のエステバリスが出撃していった。

 
辺り一面蜥蜴がいる。

そしてそれぞれ攻撃を開始した
 

アキトのエステバリスはまだ発進していない。
 

「バカばっか」

(わたしも‥‥‥‥)

その様子をつぶやきながら見ている1人の少女の姿があった。
 





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