ルリ、心の向こうで −第1話−

 
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       Martian Successor 機動戦艦ナデシコ外伝
        N A D E S I C O  『ルリ、心の向こうで』
  
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        −第1話− 『ルリ、心の向こうで』
 
 


 ナデシコ、ブリッジの中でルリは一人ため息をついていた。

そして一言、
「バカばーっか」

だがいつもの口癖とは少し違っていた。

どこが?と思うだろうがこの一言をつぶやくのに5秒もかかっているのだ。

そして、またため息一つ。

  - - - - 5分前 - - - - 

「ルリちゃん、ちょっといいかな」

思兼とやっていた格闘ゲームをやめて声の方を振り向くとメグミだった。

「いいですよ、なんですか?」

「その…あの…アキトさん…」

「テンカワさん、どうかしましたか?」

「………………、アキトさんのことどう思います?」

「いいひとですよ、と思いますけど」

「そうじゃなくてアキトさんの本当の好きな人は誰だと思う?」

メグミは不安そうにそして悲しそうな顔でルリを見つめていた。

「さぁ…わかりません、わたし少女ですから」

「………」

「すみません」

「あっ、ごめんなさい。ルリちゃんが謝ることないよ」

しばらくそのまま、そしてまたメグミが口を開く。

「艦長とアキトさんって何かお似合いなんですよね。

 私が知らないアキトさんを知っている、でも負けられない。

 人を好きになるってどれだけ長く一緒にいたかではないと思うんです。

 ありがとう、ルリちゃん少し元気が出てきたわ」

そして、席を立った。

「どこいくの?」

ミナトが訊ねた。

「ちょっと厨房へ。ホウメイさんにお料理習おうと思って。

 アキトさんに『おいしい』って喜んでもらいたいもの」

「そう」

ミナトは優しくいった。メグミはブリッジからでていった。
 
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「ルリルリ、なにぼーっとしてるの?」

「えっ?いえ別に」

そして少しずつ頬が紅潮していく。

今、ブリッジにいるのは二人だけだ。

ナデシコ艦内では、今は夜ということになっている。

「ねぇ、ルリルリは好きな人とかいないの?」

「いません、そんな人」

「へぇ〜、そうなの」

(ルリルリ怒っちゃったかな)

そう思いながらミナトは悪戯っぽく言った。

そしてルリを見ている。

それに耐えきれず、

「わたし、少女ですから」

と、わけの分からないことをつぶやくルリ。

そんなルリを見ながら

「かっわい−、ルリルリ」

それ以上なにも言わなくなったルリを見てミナトは話題を変えた。

「でもどーしてあんなのがいいんだろう、艦長もメグちゃんも」

 (それにエリナさんもあいつに気があるみたいだしぃ)」

「いいひとですよ、アキトさんは」

「でも頼りなさそうじゃない、それにアニメおたくだし、中途半端だし」

「アキトさんそんな人じゃありません。それに頼りなくなんかありません。

 私がピースランドで襲われた時にも、私を守ってくれました。

 かなわない相手だとわかっていたはずなのに、何度も何度も…」

「そうかなぁ?」

「そうです」

ルリは強い口調で話した。

(この子がこんなことを言うなんて、おもしろいからもうちょっとからかっちゃおーっと)

ミナトはそんな風に思いながら

「でも、中途半端じゃないかしら、メグちゃんと艦長のことも、コックとパイロットのことも」

(そのことを言われて胸が痛い。大きなストレスが神経に負担をかけたみたい

 でも口は止まらない。言いたくて言いたくてたまらない。どうして?)

そんなことを思いながらルリはまた口を開いた。

「それは、アキトさんがいい人だからです。それにアニメが好きでもいいじゃないですか、別に」

「そりゃそうだけど」

(あのルリルリがねぇ。もしかして?)

ミナトは正直驚いていた。

「ねぇ、ルリルリぃあいつのことかばってんの?」

「えっ?」

そしてルリは考えた。初めての感覚にとまどいながら。

(私には他人のことなんて興味ないはずなのに。その私が他人をかばうなんて。どういうことなの?)

それからしばらくルリはいろいろ考えていた。

(どうして勝手に口が動いちゃたんだろう。じっとしていられなかった、アキトさんの悪口言われるの)

そのとき、スクリーンが一つ二人の間に現れた。それはメグミさんだった。

「あのー、アキトさんどこにいるか知りませんか?部屋に行ってもいなくて」

「さぁ?」

ミナトが答える。

「ルリちゃん、お願い探してもらえないかなぁ」

「いいですよ」

ルリは、コンソールの上に手を伸ばし探しはじめた。

「わかりました、テンカワさん展望室にいます」

「展望室?ありがとう、それじゃぁ」

ぱっとスクリーンは消えた。

そしてミナトはふと思った。

(この子、さっきまで『アキトさん』って呼んでたのに今は『テンカワさん』って。

 もしかしてメグちゃんのこと意識してるにかなぁ。でもそんなわけないっか。

 さっきまでの態度を見ているとそれほど大人っぽく見えなかったもんね。)

ルリにとっては特に意識してなかった。だが、自然とその言葉を選んで使ったいたのだ。

「アキトのこと好きなの?」

しばらくしてミナトが訊ねた。

唐突に聞かれてルリは返事に困ってしまった。

「……わかりません、……でもアキトさんにはメグミさんや艦長がいますし。」

(それにアキトさんは大人だし、わたし少女だし)

そう思いながらわずかながらも寂しげな表情を見せるルリ。

「そーんなの関係無いのよ」

少し真剣になるハルカ。

(そうよ、相手がいようといまいと関係無いわ。そうじゃないと私だって...)

「そうですか?」

少し明るい表情を見せるルリ。

(そうなのかな? でも...)

ますます顔を赤くするルリ。

そのときブリッジのドアが開いた。エリナが枕を持ってあらわれた。

交代の時間である。

「どうしたの?ルリちゃん」

エリナがルリの赤い頬を見て訊ねた。

「いえ…、べつに」

すると納得したらしくミナトとタッチして席に着いた。

そしてミナトがブリッジを出ていこうとしたとき、ルリが

「どうも…、ありがとうございました」

最後の方は元気よく言った。

それを聞いてミナトが

「年なんか関係ないわよ、がんばってね応援するから」

そういって出ていった。

また、ルリの顔が赤くなった。

(がんばっててなに?応援するからってなにを応援するんだろう?)

色恋ごとの鈍感なルリは一人考え込んでいた。

それからしばらくしてルリもブリッジを出ていった。









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