12月30日
下田の家はとうに人に売り払われていたのだが、家を買った人が、特別にどうぞと云って私に2週間使わせてくれた。3階は随分内装が変わっていて、昔大きなベランダだった処に屋根をつけたのは祖父が生きていた当時にやったことだが、その広い部屋の半分ほどをロフトにして、マホガニーの階段がついていた。そのロフトはとても美しかったけれど、部屋の様子が以前とはあまりにも違っているので、悲しくなった。ロフトにはカラーコピー機が置いてある。家を買った人はデザイン事務所をやっているそうだから、仕事で使うのだろう。
下田の家は戦時中陸軍に接収され、細菌兵器研究所として使用されていた。私がロフトに上がろうとすると、階段の先に屹立している将校に見咎められた。「誰か」と問われて答えに窮していると、彼(肩章を見ると中尉らしい)は拳銃を取り出して私に向けた。はっとして、彼とその後ろにいる高官らしい人物は二人とも幽霊だと言うことに気がついた。ロフトに置いてある用途の分からない大きな機材が霞んで見える。戦時中の幻影が今もここで当時の侭に研究を続けているらしい。しかし拳銃だけは本物だと気づいて、足が竦んだ。
2階には図書館にあるような雑誌用のラックが置いてあって、グラフィックデザイン関係の様々な雑誌が並んでいた。中の一つを手に取ると、「92年版」とだけ書いてあってタイトルらしきものは何もない。表紙は、妙に肌にぴったりしたTシャツのようなものを来た白人らしい女の写真で、CG処理がしてあるらしい。バックは暗めの赤一色、中央の人物はターコイズのような青で、2色とも蛍光色のような変な色で、触った手が印刷したてのようにぬるぬるして気味が悪かった。下の方に「7」と書いてあるので他を見ると、同じ様なのが何冊かあったが「6」号だけがないので気になった。
廊下が右に分かれて、その先は風呂場になっている。曇り硝子を透かしてそこに誰か女ばかり何人も入っているのが見えて、慌てて部屋に戻った。
元の部屋には誰もいなくなって、床にシーツが敷いてあり、その下にエマニュエル・ベアールか円上寺由美子かというような女が寝ていたので吃驚した。部屋を出ようとすると、彼女が「シーツの下がどうなってるか興味ないの?」と変に芝居がかった事を言うので私は憮然として、女の肩のあたりから端に手をかけて引き下ろした。彼女は赤いような色のワンピースの水着を着ていたように思う。水着を引き剥がして、乳房に口をつけたところまでは憶えている。