12月15日

カリカリと小さな音を立てている。
来たことのある場所だった。奇妙な人物の姿が通りの向こうに見える。裸らしい。彼がこちらに歩いてくるに従い、乾いた耳障りな音が次第に大きくなってくるような気もする。
イキは盲目である。そのことは人から聞いて既に知っていた。丸い頭の周りに10センチ程の棘のようなものがびっしりと突き出ている様は、古い地図や海図に出てくる太陽のようだった。棘は古くなって黄ばんだ象牙のような色をしているが、先の部分だけ青黒い。それは棘の先まで血管が通っているためだと後になって知った。
頭部以外は我々とさほどの違いはないが、常に裸で、肌に青い有毒の灰をなすりつけて歩いている。その毒で人を殺す。
恐ろしくて、通りの脇に退いて立ちすくんだ。目のない青い顔が私の影を探っている。
既に亡くなった祖母は道端のあばら家で侘しく暮らしていた。訪ねるとその度に、自分の死後息子(私の父のことだ)はどんなに悲しんだろうと泣くのだった。
「も」と言った。
あばら家の戸口の脇に、桶があって、うちの犬が硬くなって入っている。出してやって、「権蔵」と呼ぶと動き出して吠えた。ふさふさした首を撫でてやると、舌を少し出して、黒い目を動かした。祖母は権蔵を知らない。


Go Back to INDEXorTEXTS INDEX

1