ピアノの脳

ここは大きな暗い、空洞の中で、ぼくはピアノの脳です。ギターの脳からお願いがあったので、ぼくも何か言わせてもらいたかったのです。わたしの友人にも、ギターの人はたくさんいますが、ほんとうにみなさんかわいそうなギターです。わたしたちはいつもギターをいたわってやっているのです。人間はあまりにひどいときがあるものですから・・・。

私たちピアノは、ギターなどよりずっと強いものです。しかしギターと同じく美しい心はけっして忘れてはいません。だからこの世の中は醜くて醜くてしかたないときもありますが、悲しみの中から闘志がわきあがってくるんです。だからピアノはいつでも、正しい者のみかたですし、正しい心に勇気を与えるように音を生産してきたのです。しかし人間というのは不思議に堅いもので、どんなに美しく、どんなに希望を心に満たしてやろうとしても、そちらでうけつけないことがとても多いんです。なぜもっとすなおになれないんでしょうか。ピアノは人のために生まれて人のためにあるものなのに、ぼくらの一部の人に反抗しなければいられなくなっています。ただ、愛を説くだけではどうしてもだめなことがあるものですから。

ピアノは美しいすなおな心を持っています。なぜならピアノは美しいすなおな心のかたまりみたいなものです。勇気と輝き、人間の喜びを、もっと知らせてあげたいのです。ピアノは一しょうけんめい。いつまでも待っています。ほんとうにいつまでも・・・。
美しいメロディーを流しつづけながら・・・。
ピアノは待っています。
ピアノはいつまでも・・・。
輝きのメロディーをふりまきながら・・・


<< 山田かまち 1976.2.1>>
山田千鶴子・「かまちの海」 文藝春秋より


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