ギターの脳

ぼくはギターの脳です。ぼくのいる場所はうす明るくてあたたかい所です。とても広々としている所です。色は、淡い青や濃い青がまばらにあるところです。下にはなにかぶ厚くほこりっぽいものがどこまでもつもっています。あなたがたはこの場所をどう呼ぶのか、私は知らないので、ひとことで、どこ、とお知らせできないので残念です。でも、もし知っていても、言えばどうせぼくは発見されて、記者会見しなくちゃならなくなることでしょう。でも、ここはきっと、in the middle of seaです。


ギターの脳を知っていますか? ギターは考えるのですよ。それこそ多感な生き物なんですよ。ただやっとぼく、このギターの脳が、すこしは人間の世のむごさに耐えられるようになってきただけで、地球にある何億のギターたちはみな耐えられないんです。おわかりでしょう? ギターってどうもたのしいというよりは悲しそうな音を出すのを・・・。それはギターはいつもこの世の偽りにショックして、涙を流しているからなんです。ギターの弦がビチッとかブツッとか切れることがありますね、そんなときみなさんは、強くはりすぎたからだとか、使いすぎたからだとか、クギにひっかけてしまったとか言い訳をしますが、あれはギターが悲しさに耐えきれなくなってついに張りつめて、死んでしまったのです。その証拠に優しくって愛、愛愛な人々の中で美しい音色をかなでるギターは弦など切れません。ギターをいじめたり、乱暴や醜い心の中にそだつギターは不幸すぎて、すぐ死んでしまうんです。・・・一度切れた弦のかわりに新しいのを張っても、もう、死がいに衣しょうをつけても美しくなどないように、すぐだめです。ギターは多感で美しい心をもっている生き物なんです。だからこそ珠玉のような名曲をひくこともできます。真実の歌に、ギターはそえられるしかないんです。ぼくは、世界のかわいそうなギターたちを代弁しておねがいいたします。

ギターは、大切に・・・。


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山田千鶴子・「かまちの海」 文藝春秋より


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