ぬかる民の

ちょっと地理学講座


第1回:空間認識の重要性〜イギリスのヨークシャー

 ランカシャーを例に

地理=暗記?

地理という科目は、さまざまな覚えなければならない要素がたくさんでてきますよねえ。地

形、気候、土壌,植生、人口、環境、農林水産業、鉱工業、サービス業、都市、村落、観光、

交通、宗教、民俗、政治、歴史・・・・。

さらに、統計も覚えなければならない。地域別にこれらをみた地誌も・・・・・・

あ〜、地理って何と覚えることがおおいんやー。

と生徒たちは地理ぎらいになってゆくのであります。

ある地域における、これらの要素を、無関係に全部暗記すると、これはこれはたしかに大

変なことです。そして全然おもしろくないし、実は、地理では何の役にもたちません

地理=地域性=場所によるちがいや特色の把握=空間認識の重要性

ある地域の地域性というものは、上記のさまざまな要素がそれぞれ影響しあってできてく

るものなのです。

何がどのように影響して、この地域のこの現象が生じているのか。またこの現象が生じた

ことで、別の地域にどのように影響するのか、または、どの地域に影響がおよんでいるのか。

このように、各要素の地域的な相互作用を解明し、場所によるちがいや特色は、なぜ生じ

ているのかを解明する。

これが地理学では最も重要な、物の考え方なのです。

研究対象地域に影響を与えている(または影響を受けている)地理的空間の中の諸事象

の相互関係を認識する。

すなわち、空間認識こそが、地理では最も重要な考え方です。

けっして、ひとつひとつの要素をバラバラに個別に暗記することや、多くの地名や産品や

統計順位を暗記することだけでは、地理を習得したことにはならないのです。

地理教育で重要なこと

各要素、事象の紹介、日本人との生活・文化との違い、比較だけで終わるような授業で

は、これは地理の授業とはいえないと思います。なぜそのような事象が生じているのか。

なぜそのような生活をしているのか。なぜそのような文化・風習なのか・・・・。つまり、

なぜ」にふみこまないと地理を教えたことにならないと思うのです。そして、その「なぜ」を

地域空間の中で考えさせる力を養うのが地理教師の使命だと思うのです。

空間認識を重視した授業例〜ヨークシャー、ランカシャーの産業

イギリスのグレートブリテン島の背骨、古期造山帯のペニン山脈が南北に走ってますね。

古期造山帯というのは、新生代にはいるまでに、造山運動がストップしてしまった山地で、

その後は、雨雪風氷河などによって削られる一方なので(外作用ですね)、今では低くてな

だらかな山脈になっています。中生代のころは、活発な造山運動を行っていて、そのころ

地上に繁殖していたシダ植物の化石が大量に含まれています。つまり石炭がそれで、よ

って古期造山帯では炭田が多いのです。

資源の産地の近くにはそれを原料に使う工場が立地しやすいのです。原料産地が近けれ

ば、輸送費も輸送時間も節約でき、生産コストをおさえることができますからね。だから、

エネルギー革命以前、石炭がエネルギーの主役だった時代、炭田と工業地帯が一致して

いる例が圧倒的なのです。例えばアメリカの同じく古期造山帯で石炭産地のアパラチア山

脈周辺、ロシアの古期造山帯で石炭産地のウラル山脈周辺など古くから工業地帯として

発展しています。

イギリスでは、このペニン山脈の東側をヨークシャー地方、西側をランカシャー地方といい

ます。ともに石炭産地で、それぞれヨークシャー炭田、ランカシャー炭田があります。

この石炭を利用して、18世紀の半ば、世界初の産業革命がこの地方ではじまりました。

石炭を利用した動力機械の発明は、社会を大量生産、大量輸送、大量消費、大量廃棄

の時代に導きました。

ヨークシャーでは、地元で羊の酪農がさかんなことが原因で、羊毛工業がますますさかん

になりました。

ランカシャーでは、アメリカ南部の綿花プランテーションや、やはりイギリスの植民地だっ

たインドからの綿花を原料にした綿織物工業がますますさかんになりました。

ランカシャーで綿織物工業がさかんなのは、なぜでしょう。実は綿花を糸にする時、空気

が乾燥していると切れやすいのです。ランカシャー地方はペニン山脈に、大西洋の温かい

北大西洋海流の上を吹いてきた偏西風が、ぶつかる風上側にあたります。よって降水量

が、風下側のヨークシャーより多いのです。

一方、ヨークシャーでは、なぜ羊の酪農がさかんか。このことが、雨の少なさと関係あるの

です。飼育している羊のほとんどは、毛を刈るための品種です。羊は神経質な動物で雨を

きらいますし、雨にぬれると、毛の質が悪化してしまうのです。

ところが、牛は少々の雨にぬれても平気ですし、肉や乳製品を生産する目的で飼育して

いるのですから、雨の多いランカシャーで多く飼育されてるのです。

つまり、この両地域は、様様な要素がからみあって、ひとつの地域性を形成してるといえ

ます。

ペニン山脈などの地形、降水量や偏西風などの気候、牛や羊の農牧業、炭田や繊維工

業などの鉱工業、他にも産業革命や植民地貿易などの歴史的事象、さらには、インドや

アメリカ、どれいのふるさとアフリカなどの関連他地域・・・・。実に様様な事象が影響しあ

ってこの地域の地域性を形づくっていることがわかるでしょう。

もしこれらの事象を、地形なら地形、気候なら気候、農業なら農業だけで、関連を考えず

にバラバラに暗記したら、項目が多く、とてもつらくておもしろみに欠ける勉強になってしま

うのです。またそんな勉強では、地理を学んだことに全くならないのです。各要素の関連

性に気がつけば、それぞれの要素も自然と覚えられます。地理は決して暗記科目じゃな

いんですっ。

 

第1回 9/20/1998


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