始まりから終わりへ…そして新たな始まり。

 

「ついでに言うと、結構君のこと、好きやったんで」

 

前回の更新から一年以上が過ぎ、気が付けば僕はもう大学を卒業、そして金沢を去り、東京に行く決心をしていた。

ま、現実の話をすると東京行きはまだ決定ではなく、国試の結果次第では実家のほうでバイトと勉強の日々かもしれないのだけど。

それでも、今の気持ちが変わらないなら、数年のうちに東京に行くことになると思う。

自分がゲイだと(男が好きだと)意識し始めたのは高校生の頃。

そして大学に入って、S君を好きになった。

その気持ちが強すぎて、満たされなくて、どうしようもないと思ってハッテン場に行くことを心に決めた僕。

その時は、彼に自分の気持ちを伝えることで、ふられるにしろなんにしろ、決着をつける道を選ぶことはできなかった。

 

ゲイの世界に足を踏み入れたのは自分らしさを取り戻すためだった。

しかし実際は、ゲイの世界と大学の世界という二つの世界にはさまれて、汲々として時間を過ごすことになった。

ゲイである自分の世界が膨らめば膨らむほど、大学生活は苦しくなった。

自分の生活は自分の生活、学校の生活は学校の生活と割り切るには6年間は長すぎたし、医学部という性格上、実習でともに過ごす時間は半端じゃなく長かった。

医者になりたいんだから、という根本的な想いは別としてね。

いろんな場面でつかざるを得ない嘘。

実習、プライベートと、6年間の大半をともに過ごしてきた友達に重ねてきた嘘は数知れず…。

器用に嘘をつける人間なら良かったけど、僕はもともと嘘が下手だった。

いつしか僕は、医学部では「怪しい人」、「ようわからん人」になってしまった。

はじめは嘘をつくたび苦しかったけど、下手な嘘も繰り返してついているうちに、だんだん感覚が麻痺していた。

それにつれて嘘がうまくなっていったというわけではなく、みんなが深く追求してこなくなった、そう言うことだったんだ、今思えば 。

どうせ本当のことを言うわけにはいかない、嘘をつききるしかない、そう思っていたから、この状況は好ましく思えた。

 

一方で、通い始めたゲイバーはどうだったのか。

はっきり言って、ゲイバーという世界にはなじみ切ることができなかった。

それでもいろんな人に出会い、時に付き合い、インターネットを始めてからは同じ医療関係の知り合いが増えた。

そういう中で、親友と呼ぶことのできる人も何人かでき、それはものすごく嬉しいことだった。

自分がゲイであると認識してから、心に壁を作ってしまっていた僕に風穴を開けてくれたようだった。

学校で満たされない気持ちはやはりあったけれど、そこまで求めるのは贅沢な気がした。

 

6年生になって、卒業後の進路を決定する時期になった。

僕はいろんなめぐりあわせで、東京に行くことを考え始めた。

はじめは思いつきに過ぎなかったが、やがて夢に変わり、実現しようと思い始めた。

周りは結構反対した。

何しろ、僕の出身大学はここ北陸では猛威(!)を振るっていて、もともと北陸出身の僕がここを卒業しておきながら別の地方に行くなんて、普通に考えると「変わっている」からだ。

真剣に意見してくれる人もいた。嫌味を言う人もいた(に聞こえただけかもしれないが)。

逆に、「別に良いんじゃないか?」と軽く言ってくれる人もいた。

家族は、僕が長男でないということもあったのかどうかは知らない(母親は常々、息子達に向かって「あんたらの世話にはならん」なんてことを平気で言う人だ)が、「好きなようにやりなさい」、と言ってくれた。

だけど、その誰にも、本当の理由を言うことができなかった。

本当のことを言わないとして、ほかに納得行く理由が用意出来れば良かったが、どれも現実味がないように思えた。

何よりも、ここに来て麻痺しかけていたはずの嘘をつくことに対する嫌悪感がまた強くなっていたのだ。

嘘をつくのは疲れる。

それでだまされる友達を見るのも苦しい。

そして僕は、「ハッキリとは言えないけど…」と前置きつきで過ごしずつ、僕の気持ちを話すようになった。

これで悟ってくれれば…と虫の良いことを考えていたのだが、結局、「何かよほど深いわけがあるんだろう」と変に曲解されてしまった気がする。

医学部は狭いから、僕が「何か深い理由」で東京に行こうとしていることはすぐに広まった。

大して親しくしてない奴が、無心な顔をして「なんで東京行くの?」と聞いてくる始末。

いつも言っていた理由を答えると、「それだけ?」と馬鹿にされたように言われたこともあった(くそアマ)。

 

そして季節は冬に近づき、卒試、国試が嵐のようにやってきて、そして去っていった。

卒業が目前に近づいて来て、僕はいろいろ考えた。

医学部の友達と過ごしてきた6年間はいったいなんだったんだろうかと。

一番近くにいた友達にまで、ここのまま嘘をついて去っていくのかと。

僕の存在はいったいなんだったのだろうかと。

誰かに、本当のことを知っていてもらいたい。

誰かに、本当の僕を受け入れてもらいたい。

6年間一番近くにいてくれた君たちに。

 

卒業式は市内のとある会館で行われた。

みんな嬉しそうに記念写真を撮っていた。

僕はそれに参加しつつも、どこか心苦しさを感じていた。

謝恩会、クラスの飲み会、そしてグループの飲み会。

楽しかった。

記憶が飛ぶぐらい、飲んで騒いだ。

この日を最後にもう会わない人もきっといるのだろう…。

 

翌朝、僕は二日酔いで目が覚めた。

この日は実は、S君の用事で僕が車を出すことになっていた。

彼が用事を済ませている間、二日酔いで気持ち悪くて車の中で寝て待っていながら、僕はこれが最後のチャンスに思えた。

もし、言ったことで彼に嫌われてしまっても、当分会うことはないのだから(そんなことにはならないと信じてはいたけれど)。

僕がずっと好きだった人、そして親友だと思っている人。

彼には本当のことを知っていてもらいたい。

もう近くからいなくなるのに、いったい何の利益があるか、そんなことはどうでもいい。

ただ、僕はもう彼に対して嘘つきでいたくなかった。

 

彼が戻ってきて、大学まで彼を送る、時間にしたら30分に満たない短いドライブ。

今言わなくちゃ、それ言おう!…と意気込むけど、なかなか言葉にならない。

そして僕は遠まわしにこんな風に言い始めた。

 

僕「あのさ、僕、東京行く理由、今までずっと言えないできたでしょ?」

S君「うん。…でも無理して言わなくても良いよ」

僕「というか、むしろ聴いてもらいたいんだ。…僕の秘密を聴いてくれる?」

 

…と言うやり取りの後、僕は大きく息を吸い込んだ。

ところがその後の言葉がまたまたのどに詰まってしまう。

特に「ゲイ」というそのままずばりの言葉が口を重くする。

何度も口を開けたり閉じたりして、ようやく搾り出した言葉が…。

 

「僕さあ、…ストレートじゃないんだ」

 

S君「…え…じゃあ、バイってこと?」

「いや、バイなら良いけど(?)…ゲイなんだ」

S君「……フーン、そうなんだ」

と頷いた後、こう続けた。

S君「…なんとなく分かっていたよ」

 

そうなんだ。

僕は彼のことが好きで好きで、大学1年の頃は特に彼にいろんなことを求めてしまって、ゲイである自分をぎりぎりまで出してしまっていたんだった。

だから、彼がなんとなく気づいていても不思議じゃなかった。

彼はそうじゃないかと思いながらも、僕に「そうか?」とは聞けずに来てたと言っていた。

まあ、そんな事情だから、僕のイメージは特に変わりはしないと言っていた。

それから、東京に行くことについて僕が思っていることを話した。

たくさん、たくさん話したいことはあった。

しかし、そこで時間切れ、車は目的地に着いてしまった。

そこで最後に、ホントは一番彼に伝えたかったことを努めて軽く言った。

 

「ついでに言うと、結構君のこと、好きやったんで」

 

と…。

別れ際、S君が僕に言った。

「がんばれよ」

なんだか、胸にしみわたった。

 

君もがんばれよ、そして…これからもよろしくね。

僕はこれで終わりにしたくて言ったわけではない。

距離はこれから遠くなるけれど、嘘をつかなくてもいい関係に初めてなれたんだから。

だからこれからも、いやこれからこそが始まりなんだよ…と僕は思っているから。

 

後日彼にはメールも送ったし、電話でいろいろ話した。

彼とゲイのネタで盛り上がれるなんて今まで考えられなかったから、すごく嬉しかった。

 

実は、S君にカミングアウトした後、もう一人、ずっと親しくしてきた友達にもカミングアウトした。

彼にも、「僕はストレートじゃないんだ」と切り出した。

そうしたら、「性格が曲がってるってこと?」何て言われた(曲がってるかもしんないけど)。

ま、ちゃんと伝えることはできたんだけど、彼は「まったく思ったこともなかった」と言っていた。

それだけうまく隠していたというか、心を閉ざしてしまっていたというか…。

でも、ごくごく冷静に僕の話を聴いて、こんなことを言ってくれた。

 

僕らは実習でもプライベートでも、かなりの長い時間いっしょにいたのに、そして友達なのに、隠し事がたくさんあるように思えたし、特に東京に行くことに関してはまったく核心を言ってくれなかったから、友達といっても、形だけか…と思っていたと。

今回、言ってくれたことによって、今まで怪しいと思っていた行動がすべて納得いったし、これでようやく親友になれるね、と。

ついでに、これと同じことを思っている友達が他にもまだいるということも教えてくれた。

 

カミングアウトは僕自身の心の平安を得るために実行に移した。

だけど真実は、単純に僕の心のわだかまりを解いてくれただけでなく、聴いてくれた彼の中にあったわだかまりも解いてくれた。

そしてそのことが、僕らの関係をより良いものにすることを祈っているし信じている。

今はカミングアウトして良かったと思っている。

僕の話を聴いてくれ、受け入れてくれた友達には感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

6年間抱えてきた気持ち、そして卒業を前にして僕の心に吹き荒れた嵐に対して、こうして一応決着をつけることができた。

これから先もカミングアウトする機会はあると思う。

今回の出来事は、決して今後安易にカミングアウトするような流れに向かうものではないけれど、だけどきっと「勇気」になると思った。

僕が僕らしくあるために、そういう風に生きていくために。

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