「クトゥルフの呼び声」とは・・・?


・テーブルトークRPG
テーブルトークRPGと呼ばれるゲームをご存じでしょうか?
まあ、知ってる人もいれば知らない人もいるでしょう。
今からもう10年くらい昔になるでしょうか、日本にD&DというテーブルトークRPGが入ってきました。
テーブルトークとは、そのまま「雑談」というような意味にとってしまってかまいません。
一つテーマを決めて、みんなでよってたかって話をして、それが大きな一つの話を紡ぎ出すわけです。

どんな話でもいいのですが、当時はまずヨーロッパ中世風の幻想世界の話が主流でした。
剣と魔法の世界で、悪の竜を倒してお姫様を救い出したり、莫大な財宝を手に入れる・・・
そんな話を、一つのテーブルを囲んでしていた訳です。
話を進めていく上で、みんな自分の役割を決めていました。
これは子供のごっこ遊びと同じです。
「僕は魔法を使う魔法使いだ」とか「強い剣士だ」といった具合です。
この辺りに、RolePlaying(役割を演じる)Gameの語源がある訳です。

さて、しかしみんなで好き勝手に喋っていては話になりません。
主役になりたいのはみんな同じ事ですし、
「強い剣士」というものが、果たしてどの程度の手練れなのかは判りません。
「世界一強いからどんな怪物でも倒せる」
そう豪語されると、なんだかみんな一人で倒してしまって、あまり楽しくありません。
言ってる本人もそのうち飽きてくるでしょう。
お話の筋書きも問題です。
ただ悪い竜がいて、姫をさらったから取り返しに行く。
その話にどれだけのバリエーションができるでしょう?
みんなで好き勝手に話しているうちは、本当にただの「雑談」です。

そこにルールを与えることによって、ゲームとしての体系ができあがったのです。
どのくらい強いかをキャラクターシートに数字として書き込むことによって、具体的なものにしました。
ただ戦えば勝てるでは面白くないので、ダイス(サイコロ)を用いて乱数の要素を入れました。
理不尽に強い魔法ばかりではやはり話に緊張感がでないので、様々な制約を作りました。
シナリオと呼ばれる全体的な筋書きを用意して、そこに沿って話を進めるようになりました。

しかし、それでもまだ完全ではありません。
ルールを守っていることを管理する人が求められました。
シナリオが判っているとつまらないので、その進行をまかされる人が求められました。
そうやって「ゲームマスター」とか「キーパー」と呼ばれる役割が生まれたのです。

日本にやってきたD&DはそんなテーブルトークRPGで、当時爆発的に流行りました。
そのブームに乗って、様々なテーブルトークRPGのルールが輸入されてきました。
「クトゥルフの呼び声」もまた、そんなアメリカから来たテーブルトークRPGの一つなのです。


・クトゥルフRPG
当時、テーブルトークRPGといえばヨーロッパ中世世界真っ盛りでした。
剣と魔法、ドラゴン、これがテーブルトークの合い言葉として通っていました。
中でもD&DとT&Tは名作と誉れ高く、今でもアドバンスドD&D、ハイパーT&Tとして残っています。
(残ってないかも・・・特にT&Tは)
そんな中で一際異彩を放っていたのが、「クトゥルフの呼び声」なのです。

クトゥルフ神話はラヴクラフトとその周辺作家が作り上げた一大コミュニティ(と私は呼んでいる)です。
しかも、これは必ず人間の方が破滅するというとびっきりダークな世界観のホラー小説群な訳です。
この世界観をRPGに持ってこようと考えたケイオシアム社は、凄いという以前にかなりヘンです。
プレイヤーは狂気と暗黒の世界に首を突っ込み、やがて自滅して行く運命を辿ります。
そのおどろおどろしい雰囲気を、怪談のようにRPGとして楽しんで貰いたいということなのです。

この一見奇妙なゲームは、しかしかなりマニアックな作り込みをしてありました。
まず、クトゥルフ神話というベースが実に新鮮でした。
単純にやれゾンビだ幽霊だというのとはまるで違う恐怖感を持っているのです。
しかもこのゲームのサプリメントには、
そのクトゥルフ神話がデータベースのように整頓されて細かく記述されているのです。
この一種異様な世界観は、当時マニア心をくすぐり、静かにですが相当に盛り上がりました。

ゲームのルールとして見た場合は、ルーンクエストを素材としており、せいぜいまあまあ程度のものでした。
ただ、このゲームの特徴的なものとして、「正気度」と呼ばれるパラメータがありました。
超常現象に遭遇する度にこの「正気度」は減少し、ついには発狂(!)してしまうのです。
当時からしても、なんともまあシュールなものだと感心したものです。

他のテーブルトークRPGが、やれ戦闘だ魔法だと騒いでいる中、「クトゥルフの呼び声」だけは少し違いました。
クトゥルフ神話の怪物は、人間が太刀打ちできる相手ではないのです。
ただひたすらに、プレイヤーは逃げることを要求されます。
なにしろ、でくわしただけで「正気度」チェックが待っているのですから。
この辺が、マニア心にはオモシロイのですが、一般受けしなかった要因とも考えられます。

また、このゲームの魅力は、資料性の高さにもあります。
クトゥルフ神話に関しては、今更記述するまでもありません。
実は、このゲームのベーシックルールでは、
舞台をラヴクラフトの活躍した1920年代のアメリカに設定しているのです。
同梱されている1920年代アメリカに関する資料は、それだけで感動モノでした。
その後、ホームズや火星人の登場する1890年代イギリス
日本で制作された1980年代日本
太古の昔、ツァトゥガが崇められていたハイパーボレア
あの伝説の町を舞台にしたアーカム
現代科学と法医学を考察したNOWが発売されました。

リアルな世界で繰り広げられる、クトゥルフ神話の世界・・・それがこのゲームの魅力です。
クトゥルフ神話に限らずとも、何か奇妙な事件や、推理モノ等、シナリオのバリエーションもいくらでも考えられます。
ただ、リアルすぎるためにシナリオの制作が困難だとも言われましたが、そこが却って楽しいと思うのです。
良いシナリオをプレイした時の、満足感が違うのです。

その後、テーブルトークRPGは中世ファンタジーにとどまらず、様々なジャンルで展開していきました。
新しいテーブルトークRPGが次々と生まれていく中で、「クトゥルフの呼び声」は忘れられつつあります。
ルールとしてはたいしたことのない古典的なモノかもしれませんが、
皆さんが少しでも興味を持っていただければ幸いです。



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