えっ、ちょっと、どういうことなのよ〜、これは。
は、恥ずかしい。
お店の人は急に後ろ向いて笑い出しちゃうし。第一、私のせいじゃないよ。
「んっ、レイ君ではないか。どうしたんだね、顔をふくらませて」
えっ!あっ、碇君のおじさま、どうしてここに。
どうしよう、こんな顔見られちゃったなんて。
「あっ、いえ、ちょっと」
どうやって説明すればいいの。
説明したって笑い話にしかならないよ。
「ほぅ、なるほど、そういうことか。君、何を笑っているんだ。君たちの責任だろう」
おじさまは急に向きなおり店員にむかって言った。あの例のポーズで。そう、人差し指でサングラスを押し上げながら‥‥‥
「も、申し訳ありません。私どもの不手際で。お代は頂きませんので、何卒お許し下さいませ」
店員は顔面蒼白である。手なんか震えているみたい。
「わたしに謝ってどうするつもりだ」
「申し訳ありません、今後は気をつけますので。本当にすみませんでした」
んん〜ん、謝られるのっていい気分。
しかし‥‥‥どうして私はこうのせられやすいんだろう。
結局、碇くんちに行くことになっちゃったみたい。
おじさまから誘われるなんて思っても見なかった。
ホント、碇くんがアスカのうちに逃げたがるのわかる気がする。
でも、今日はおじさまにピンチを救ってもらったからまぁいいか。
今日もこの間みたいなおいしい料理が食べられるもの。
この間か‥‥‥
ああーっ!考えたら余計腹が立ってくるわ。
1週間もたってるのにまだ修理できてないなんて。
今度から違う自転車屋さんにしようかしら。
「どうかしたかね」
「いえ、別に何も」
「さっきからぶつぶつ言ってるようだが」
「えっ!わたしなにか言ってました?」
「いや、問題ない」
「はぁ」
うそー、また癖が出ちゃった。
イヤなことを考えてるとつい口が動いてしまうのよ。
この間、ヒカリに言われたばっかなのに。
これじゃ、アスカとかわんないじゃない。
でも、碇くんのおじさまって以外に安全運転なんだ。
ちゃんと一旦停止もしてるし、法定速度も守ってるし、なによりシートベルトつけてるもん。
やっぱ、碇くんてお父さん似なのかなぁ。
妙にまじめなとことか不愛想そうなとことかそっくりね。
あっ、でも顔はお母さん似かな。
「レイ君、レイ君」
「あっ、はい」
「うちに着いたんだが」
「すみません」
いけない、また一人の世界に入ってたみたい。
注意しておかないと、今度はおばさまがいらっしゃるんだから。
カチャッ
「‥‥‥」
パタパタパタ
「あら、あなたどうしたんです、今日は『ただいま』がありませんけど」
「ああ」
「ああって、‥‥‥あっ、そういうことですか」
「‥‥‥」
おばさま、私みて微笑んだ!
この笑みはなんかあるみたい。
気をつけなくっちゃ。
でも、さっきのおばさまの会話とおじさまの沈黙って何だったんだろう?
「いらっしゃい、レイちゃん」
「こんにちは、お邪魔します」
「さあさあ、入ってちょうだい」
「はい」
「でも嬉しいわ、レイちゃんの方からうちに遊びに来てくれるなんて」
「いえ、そうじゃなくて」
「何かしら?」
「あははは、おばさまこれからお料理するんですか」
「手伝ってくれるの?」
「はい、もちろん」
「うれしいわ、レイちゃんが進んで花嫁修行をはじめるなんて」
「そ、そうですか?」
「ええ」
しまった、ホントのこと言ったほうがよかったかも。
それに、なんでいきなり花嫁修業になっちゃうかなぁ。
どうしよう、何も考えずに返事しちゃったから‥‥‥
「今日は何にしようかしら、どう思う?レイちゃん」
「はぁ、碇くんの好きな物でいいんじゃないですか」
「そう?レイちゃんがそういうならそうしましょ」
しまった、また聞き流してた。
それに‥‥‥
ああーっ、なんかますます窮地に追いつめれているみたい。
冷静に、落ち着いて、普段通りに振る舞えばいいんだから。
だめっ、緊張しちゃう。
さっき私が言った言葉が頭に中でぐるぐる回ってる。
さっきの発言はかなりまずかったかも。
また、おばさまにからかわれそう。
「レイちゃん、どうしたの、ぼうっとしちゃって」
「いえ、ただ‥‥‥」
「そう、わかったわ。まっ、今は一生懸命お料理しましょ」
「はい、そうですね」
「碇くんてオムライスが好きなんですか」
「そうなのよ、いつまでたっても子供で」
「そんなことないですよ、私もオムライス好きですし」
「そう?なら、ちょうどいいじゃない」
「はぁ」
ちょうどいいってなにか含みがあるみたい。
また、おばさまなにか考えてるわ。
でも、碇くんどこ行ったんだろう。
まだ帰ってきてないみたい。
アスカのとこ行ってるのかしら。
「あの、おばさま、碇くんは‥‥‥」
「まだ帰ってこないのよ。アスカちゃんのうちかも」
ううっ、またおばさまの笑みが‥‥‥
まるで、わたしの動揺するのを楽しみにしてるみたい。
でも、大丈夫。いつも碇くんで同じことしてたもん。コツは掴んでるわ。
でも、ホント、どこ行ってるのかな。
「安心したまえ、アスカ君のところにはシンジはいない」
はっとして振り返るとおじさまが‥‥‥
椅子に座り、鼻の下辺りで手を組んでいるポーズのおじさまがリビングにいた。
なにかずっとこっちを観察してたみたいに。
でも‥‥なんで、アスカのうちに碇くんがいないことを知ってるのかなぁ。
おじさまって、不思議な人ね。
「あら、あなたも手伝う?」
「‥‥‥‥」
あっ、おじさまとなりの部屋へ行っちゃった。
おじさまもお料理するのかなぁ。
「たただいま」
「おかえり」
「あれ、綾波、なんでうちにいるの」
「私がいたら迷惑みたいないいようね」
「そんなことないよ」
「ホントかしら」
「うん。あっ、また綾波の料理食べれるの」
「えっ、そうだけど」
「そう、じゃがんばってね」
碇くん自分の部屋に行っちゃった。
けど、碇くん私の料理楽しみにしてくれたんだ。
がんばっておいしいものつくらなきゃ。
おばさまが言ってたことわかる気がする。
やっぱ食べてくれる人がいないと料理しててもつまんないもの。
てへへ、この辺ではアスカより私の方が有利ね。
だって、言っちゃ悪いけどアスカお料理下手だもの。
「そろそろいいわね。レイちゃん、シンジ呼んできてくれない?」
「はい」
碇くんの部屋ってどこだっけ?
あっ、この部屋かな。
カチャ
「なにか用かね?」
「あ、ははは。あの、夕食の用意が出来ましたので」
「わかった」
びっくりしたー。
おじさまの部屋だったの?
でも、おじさまもかわいいところあるみたい。
枕抱いて寝てたもん。
それに、寝てるときまでサングラスしてたもの。
ここかなぁ。今度は大丈夫だと思うけど。
カチャ
「い、碇くん」
「わぁーっ、ノックぐらいしてよ」
「ごめん」
「いいから、ちょっと出ていってくれないかなぁ」
「あ、ははは、そうだね」
カチャ
またやってしまった。
それに、碇くんも着替えてるなら、そういてくれないと。
あっ、でもノックせずにドア開けた私が悪いのよね。
でも‥‥‥碇くん、ブリーフだった!
男の子っていいわね。
って、これじゃ相田君や鈴原君と変わらないわね、私も。
「それじゃいただきましょうか」
「うむ」
「いただきます」
「いただきます」
私はスプーンを手に取りおばさまと私の合作のオムライスをすくう。
ほどよい薄さのたまごをつきぬけスプーンにのる。
そして、待ちかまえる私のくちへ。
やっぱりおいしい。
合作と言っても私が手伝ったのは材料をきざむのと、薄焼き卵の上にご飯をよそうのとケチャップをオムライスの上にかけただけ。
あとはほとんどおばさまがやってしまった。もちろん、ほかの料理も。
手伝ったというより教えてもらったという方がいいぐらい。
でも、おばさまの教え方ってとってもうまいの。
この間も教わってさっそくシチュー作ってみたけど、いつものなんか比べものにならないくらいおいしかった。
もちろん、おばさまの味にはまだまだだけど。
今度、肉じゃがのおいしい調理法のコツを教えてくれるって。
また、いつもの笑顔だったけど。
でも、いいわ。誘われたらまたお料理習いにこようかなとか思ってるもの、わたし。
お料理が楽しいっておばさまが言ってたのがよくわかる。
私はそっと碇くんを見た。
おいしそうに食べてる。それもほくほくとした笑顔で。
でも、顔を正面にもどすと‥‥‥‥
座席の配置はこの前と一緒‥‥‥‥おじさまと目が合ってしまった。
うっ、なんか、ちょっとね。
でも‥‥‥おじさまが笑みをもらす。口元からニヤリと聞こえてきそうなほどに。
なんか怖かったので私はなにも気づかなかった振りをして自分のを食べるのに専念した。
でも、ホント、おいし!
「‥‥でも、そんなに急ぐこともありませんでしょう」
「うむ、だが‥‥」
「シンジどころかレイちゃんにも嫌われますよ」
「レイ君の方は大丈夫だ。すでにシナリオ通り動いてくれている。それに‥‥切り札も掴んでいるからな」
「あら、切り札ってなんのことです?私は知りませんけど」
「うむ、今はかまわん」
「はいはい、わかりました。なに考えてるのか知りませんけど程々にお願いしますね」
「ああ‥‥でなければ君の楽しみもなくなるからな」
「ほほほ、何のことでしょう」
「人は楽しみを失っては生きていけないとはよく言ったものだな」
「ホント、そうですね」
外‥‥雨が降ってる。
雨‥‥冷たいもの、水。空から降ってくるもの。
なにもかも洗い流す。人が嫌うもの。
気分が憂鬱になるから。それに濡れるもの。
でも‥‥私は嫌いじゃない。どちらかといえば好き。
雨を見てると心が落ち着いてくるもの。
透き通った空にはない何かが心を静めてくれる。
うう〜ん、我ながらよくできたかも。
私にはないちょっとシリアスな雰囲気を出そうとか思いながら作ったの。
って、ポエムやってる場合じゃないわ。
どうしよう‥‥このままじゃ帰れない。
傘を借りようと思って頼んでも、あのおばさまのことだし
『あら、泊まってけばいいじゃない。明日は日曜だし』
って返されちゃうわ、たぶん。
それもいいかなぁ、と思うけどやっぱまだ早いよね。
もうちょっと大きくなってからじゃないと。
ああ〜、私ったらなに考えてんのかしら、もう。
でも‥‥うじうじ考えても仕方がないか。
とりあえず聞いてみようかな。
はぁ、やっぱり‥‥‥
おじさまったら玄関の前に座ってるんだもの。
碇くんに聞いたらあそこで座禅組んでるんだって。
『いつもの日課だからどうしようもないよ』だって。
でも‥‥あの状態のおじさまの目の前を通って帰るなんてできそうもない。
上半身裸で時折念仏らしきものを唱えてる。
私が廊下に出ればそっと目を開けサングラスをずりあげてる。
おばさまなんてにこにこしてるし‥‥‥
おばさまに頼んでも無理だって目に見えてるわ。
碇くんにおじさまを説得させるのは無理な注文だし。
雨がやむまでもうちょっと我慢してみるか。
おばさまはお風呂に入りに行った。
おじさまは修行中。
碇くんはなにをするでもなくソファーに寝そべってテレビ見てる。
私は‥‥‥そんな余裕なし。
雨の様子が気になって。でも、どうしよう。このまま雨が止まなければ。
思い切ってお世話になっちゃおうかな。
おばさまなんてもう私が泊まるものだと思いこんでパジャマとかだしてきた。
『これ、わたしのお古なんだけどどうかしら。サイズはたぶん大丈夫だと思うけど』
って、コメントを添えながら。
「ねぇ、綾波」
まぁ、一緒に寝ると言っても碇君だから大丈夫だろうけど。
あっ、こんなこと言うと碇くんに悪いかな、てへへ。
「ねぇっ!、綾波ってば」
碇君、どうしたんだろう。大きな声出して。
「なに?」」
「何、じゃないよ。呼んでたのに返事してくれないし、急ににやつくから」
「えっ、ホント?」
「もしかして‥‥気づいてなかったの?」
「あははは、ま、まぁ気にしないで。そんなこともあるわよ。人間なんだし。ねっ!」
「あるわけないよ‥‥‥」
「なにか言った?」
「‥‥‥‥」
「そうなんだ、まっ、いいわ。私はアスカと違って心が広いから」
『そういうところがアスカに似てるって言われるんだよ』などシンジが考えてるだろうとは思わず話を進める。
「で、なにか言いたいことあったの?」
「えっ、いや、あの‥‥‥今日どうするのかなって」
「ホント、どうしようか」
「僕に聞かれても‥‥‥」
「じゃぁ、お言葉に甘えて泊まろうかな」
「えっ‥‥」
ふふふ、碇くん焦ってる。なにかやーらしいこと考えてたのかな。
ホント、このままお世話になっちゃうのも楽しいかも。
「うれしいわ、レイちゃんからそう言ってくれるなんて」
「おばさま‥‥‥今のはちょっと‥‥」
うそ〜、おばさまがいるなんて気づかなかった。
それに私が調子に乗ってもらしたことしっかり聞いてるし。
ここはひとまず退散した方がいいかも。
「あの‥‥おばさま、外の空気がちょっと吸いたいかなとか思ってたりするんですけど」
わたしは精一杯の笑顔で尋ねた。ちょっとでも、その場をごまかそうと。
「そう、シンジ、レイちゃんをベランダに案内してあげて」
「母さんがやればいいじゃないか」
「なに言ってるの。湯冷めしちゃうじゃない」
「わたしが風邪でもひいたら困るのはあなたよ、シンジ」
『ユイの言うとおりだ』
廊下からおじさまの声が聞こえてくる。
でも‥‥‥あそこにいてよく聞こえるわね。
「わかったよ、じゃぁ、綾波いこうか」
「うん」
‥‥‥はぁ、外の様子見に行くのになんでこんなに
手間がかかるのかしら。
それに、碇くんもそんなにイヤそうにしなくてもいいと思うんだけど。
せっかくふたりっきりになれるのに。
「まだ雨止んでないね」
「うん」
「ねぇ、アスカってこのとなりに住んでるんでしょ」
「そうだけど‥‥それがなにか」
「別にぃー」
「なんだよ、その顔は」
「ふふふ、気にしないで」
「そんなこと言ったって気になるよ。母さんと同し笑い顔だし」
「へぇ〜〜碇くんは私にお母さんを見てるんだ」
「ち、ちがうよ。変な言い方やめてくれよ。まるでマザコンみたいじゃないか。それに、また、何か企んでるのかなぁって思っただけだよ」
碇くん、顔が赤くなってる。なんかこういう碇くんってかわいい。母性本能をくすぐられるって感じで。
「またって、いつ私が企み事をしたかなぁ」
「いつもじゃないか。アスカに余計なことふっかけてさ。とばっちりくらうの僕なんだから」
「ああ、あれは私の趣味みたいなものだから気にしないで。それにアスカの方もわかってるみたいだし。コミュニケーションみたいなものだから」
「コミュニケーション‥‥‥はぁ〜〜、僕の立場も考えてよ。お願いだから」
「挨拶は企みとは言えないわよ。被害を受ける受けないはアスカの勝手だから」
「はぁ〜〜、‥‥‥じゃ、じゃあ、あの時は‥‥‥」
「あの時?」
「ケンスケたちと一緒に写真とった時だよ」
「ああ‥‥あの時がどうしたの?」
あの時か‥‥‥なんか急に寂しくなっちゃってみんなで一緒に写真撮ったんだよね。
で、ちょっといたずらして碇くんに抱きついちゃった。いたずらってゆうより私の意志なんだけど。
ああ〜〜、アスカの気持ち‥‥わかる気がする。碇くんって鈍感ね。ホントにあのおばさまとおじさまの子供かしら。
でも‥‥碇くんいやだったのかな。ああいうの。
まっ、私におしとやかに振る舞えっていっても無理だけど。
「いや‥‥いきなり抱きついてきて‥‥‥お陰で父さんにさんざんからかわれたんだから」
父さん?‥‥‥なんでおじさまの名前が出てくるの?
「あのぉ〜、ちょっといい?」
「な、なにかな?」
「どうしておじさまが私と碇くんが抱き合ってたこと知ってるの?」
「そ、そういえば‥‥‥なんで父さん写真のこと知ってるんだろう」
‥‥‥プライバシーといういものがないみたいね。この家。
碇くんも、それに気づかないとは‥‥‥先は長そうね、とほほ。
「見せた覚えはないんだけどなぁ。それに見せるわけないし、どうしてだろう‥‥‥」
レイはそんなシンジにため息をつきながらある一つの仮定を立てていた。
まず間違えはないだろう。
おじさまも結構怖い人ね。
「で、いかりくうーん」
「ん、な、なにかなぁ」
シンジはレイの妖しげな笑みに恐怖感を
覚えてかじりじりと下がってる。
「雨止んでるね」
「へっ?」
「じゃぁ、私帰るから」
「ホントだ」
碇くん‥‥ワンテンポ私とずれてる‥‥‥
「あ、あのさぁ、綾波」
「な〜に」
「今日のオムライスおいしかった」
「えっ‥‥‥ありがと。‥‥‥でも私が作ったのって‥‥」
「わかってるよ。卵焼いただけぐらいなんだろ」
卵もおばさまが焼いた。わたしがやったのは‥‥‥卵の中にケチャップご飯をよそっただけ‥‥‥
「うまくやったということより、やろうとした、確実にこれはやったという方が大切だって父さんが言ってたことがあった。僕もその気持ちわかるような気がするから」
「いかりくん?、それ‥‥どういうこと?」
「えっ‥‥いや、い、意味はとくにないんだけど‥‥‥」
「そう、意味はないの。じゃぁ、やーめた」
「やめたってなにを?」
「それくらい自分で考えなさい。じゃないとおじさまやおばさまにからかわれるわよ」
レイは,ある一角を見ながら呟いた。
そこには‥‥‥おそらくはゲンドウ氏所有のものと思われる監視カメラが‥‥‥
「ねぇ、碇くん。あたしの料理もっと食べたい?」
「えっ、うん」
「そうか、じゃぁ、本格的におばさまにお料理習おうかしら。いつか私だけの作った料理を食べさせてあげれるように。‥‥ねっ、おばさまっ!」
碇くんたら、怪訝な顔しちゃって、ホントに気づいてないのかしら。
でも、いいわ。これからおばさまについてお料理も碇くんのからかい方もならわなきゃ。
アスカには悪いけど‥‥‥これもおばさまの意向だし。
それに‥‥‥なにより私のやりたいことだもの。
おまけ
「それにしても」
綾波が帰った後で僕は一人で考えていた。
「どうして父さんが写真のことを知ってるんだろうな」
そうだ、どうして知ってるんだ。それに母さんも知ってるみたいだし。
ちゃんと机の引き出しに入れて、鍵までかけてあるというのに……
それに鍵は常に財布に入れて持ち歩いている。
まさか、勝手に合い鍵を作られてるとか?
それで僕のいないうちに、こっそり引き出しの中を覗いてるんじゃ……
「……よし」
僕は思い立って、引き出しにちょっとした仕掛けをしておくことにした。
以前、本で読んだやつだ。
思い出しながらだったので、結構時間がかかってしまったが、何とか細工できた。
「これで明日になって、仕掛けが外れてたら……」
その時は……
…………
……隠し場所を変えよう。
父さんに文句を言うのは怖い……
おまけ(2)
次の日。日曜日、昼下がり。碇家。
「あなた、ちょっと……」
妻が主人を呼んだ。主人はサングラスを押し上げながらゆっくりと立ち上がる。
そして二人は息子の部屋へと入っていった。
「シンジったら、引き出しにこんな細工してたんですよ。どうします?」
妻はそう言って主人に引き出しの中身を見せた。
主人は前屈みになって無言でそれを検分していたが、やがて背筋をぴしっと伸ばすと、
再びサングラスを押し上げながら嘯いた。
「シンジ、愚かだな……お前には失望したぞ。この仕掛けは私がお前に買い与えた
本に書いてあったものだ。しかも私が詳しく説明してやったはずだが……ふっ、
シンジ、お前が親を出し抜こうとするなど、2015年早いな」
そう言って主人はわずか一分もかからずに仕掛けを元に戻してしまった。
無論、帰って来て机の引き出しを確かめた息子がそのことに気付いたはずがない……。
- fin -
ここを訪れて下さったのべ10,000人の方々、どうもありがとうございました。無事にこの日を迎えられることができ感激しております。
今後とも『The Remains of Another World』をよろしくお願いいたします。
この作品『ある平和な街の願い』ですが忙しくあまり時間がなかったものですのでA.S.A.I.様の短編の設定を引用させていただきました。
『最初の晩餐』の続きという設定になっております。なお、今回は無理を言って“おまけ”書いていただきました。A.S.A.I.様、本当にありがとうございます。