生活との関わりに着目した理科教材
20 Jan. 2005
1.主題について
(1)めざす姿
理科の学習では、「生活との関わり」を重視している。課題について今までの学習内容や仲間の意見を自分の考えに生かしながらまとめていく活動の中で、自分の生活の中での体験をふまえて考えることができる姿をめざしている。
(2)生徒の実態
「マッチをすってストーブに火をつける」という体験のない生徒がほとんどである。1年生の2学期以降のガスバーナーを用いる実験でも、マッチで点火する作業がもっとも苦手という生徒が多い。
また、小学校で糸電話を使ってみたことがない。ほかにも、水の流れで砂場の砂がけずられるようすを観察したことがないなど、知識としていろいろな現象を知っていても体験との結びつきが弱い。
(3)研究主題
(4)研究仮説
身近な材料を用いた実験を通して、理科室の実験机の上だけで再現される知識としてでなく、身のまわりの現象や物質に共通する法則として、ある考えを見いだせることをめざす。
また、「○○についてかんたんな実験で確かめられることがわかった。あとでこの条件を変えて実験してみたい。」など、自分が疑問に思ったこと、より詳しく追求したいことを調べる方法についても考えることができるようにしたい。
(5)研究内容
生徒の日常生活と結びつけて課題を考える機会を多くもたせるために、身近な材料を使った実験・観察の開発が有効と考えた。
2.実践
(1)実践1: 「身のまわりの物質」より 身近な植物を使って酸性・アルカリ性を調べる方法
「身のまわりの物質」では水溶液の酸性・アルカリ性を調べる方法としてBTB溶液・フェノールフタレインなどの試薬を用いるが、これらの他にも酸やアルカリに反応して変色する植物がいくつかあることも 紹介している。身近な植物の例として、アサガオ・アジサイ・ムラサキツユクサ・紫キャベツ・シソ・紫タマ ネギなどがある。アジサイが生育地の土壌によって花の色を変えることを聞いている生徒もいる。
特殊学級の理科の授業において、特殊な試薬でなく身近にある材料を使って水溶液の性質を調べる方法にふれることから、身のまわりにある物質の化学的な性質について考えることができることをめざした。
9月の校庭で咲いていて毎日目にしている花のうち、まとまった量を確保するのが容易な植物ということでアサガオを使用した。
実験の概略は以下のとおり。
i) 校庭にあるアサガオのうち、花が終わっているものから花弁を20〜30枚集めてくる。
ii)乳鉢で軽くすりつぶし、ガーゼで絞るかろ紙を用いて色水を集める。
iii)手洗い場の水・雨水・などに色水を1cc程度加える。
水溶液の酸性〜アルカリ性に応じて赤〜青緑と変色する。
顕著な変色がみられる例として、水で薄めた酢・せっけん水などを用意した。また、「運動場の土を調べてみたい」という意見もあったので、同じ量の水で洗った上澄みを使って調べさせた。
なお、アサガオの色水では中性(pH7)付近での感度が低く、紫がかった赤のままで変化しない範囲が広かった。理科室の水道水・手洗い場の水道水・雨水・生徒の持ってきた麦茶・運動場の土、いずれも紫がかった赤になり、明らかな差はみられなかった。中性付近の水溶液を細かく調べるためには、やはり市販のBTB溶液や万能試験紙が適していることも授業のまとめで紹介した。
(2)実践2: 「身のまわりの現象」より、「息をふきこんで自分を持ち上げてみよう」
(ゴミ袋のエアージャッキ)
力のはたらく面積を変えることで、小さい力で人間の体重を持ち上げることができることを通して、面積あたりの「圧力」の学習に結びつける。
i)ポリエチレンのゴミ袋に園芸用のビニールホースをつなぎ、接続部をガムテープで二重三重に密封する。
ii) 袋に乗った状態で、息を吹き込む。袋に直接乗った場合は、乗った部分だけがつぶれて床についてしまう。
iii)袋の上に1平方メートル程度の板を乗せて再度実験すると、自分の吹き込む息の力でからだが持ち上がる。(数回吹いた段階で、近くで見ている生徒には持ち上がり始めるのがわかる)
比較的丈夫で十分大きい袋として、業務用の白色ゴミ袋(80cm×80cm程度)を使用した。ビニールホースも廃品を利用し、板は段ボールを2枚重ねれば演示に十分な強度が得られた。
当初の授業計画では生徒のうちから希望者にエアージャッキを体験させる想定であった。しかし、息でふくらますにはかなり深い呼吸で何回か繰り返し吹き込む必要があり、健康面での不安があったため授業では演示にとどめた。
生徒は前時までの力学台車の実験などで、生徒は1Nや5Nという力の大きさがどの程度のものか体験している。「圧力」の定義を説明したあとで段ボールにかかる圧力を概算してみせると、この方法であれ ば大人の体重を支えるのにもたいした力はいらないことに気付く。
3.考察
圧力の授業では、計算式でつまずく生徒が多い。「力のはたらく面積が小さいほど力のはたらきかたは大きくなる」という考え方については、エアージャッキの例を思い出させるほか、教科書で紹介されている「鉛筆のけずった側とけずってない側では、けずった側のほうが指で押してみていたく感じる」という例もわかりやすい。
4.成果と課題
(1)成果
○色水の実験以後、教室の水槽や畑にたまった雨水をみて「この水は酸性を示すかアルカリ性を示すか、こんどやってみたい」という生徒の言葉をよく聞くようになった。授業で行った方法を使えば自分で調べることができることから、酸性・アルカリ性という性質について身近に感じることができるようになったと考えている。
○圧力の実験について、生徒の考察では「板をのせることで、体重が分散したんだと思う」という意見が多かった。意見の中に「力が分散する」という言葉が出ると、支持する意見が多く出てくる。
ノートのまとめでは、「息の力で人が持ち上がるなんて初めて見たのでびっくりした。でも体重のかかる面積が大きくなったから持ち上げることができたとわかった。」と感想をしるす生徒もいた。
(2)課題
●実験はできるかぎり全員、ないしは各班で実際に体験させたい。エアージャッキの実験も、息でふくらます代わりに市販の小型ポンプを用いれば生徒に体験させることができ、時間も短縮できる。
●授業の中で「身近な例を思い出してみよう」といっても、当日発問された場ではなかなか思い浮かばないことが多い。より多くの発言を期待する場合、前時においてあらかじめ提示しておくようにしたい。
●今後は地域教材の研究も手がけていく余地があると考える。学校の裏手にO山があり、チャート層のしゅう曲が間近に観察できるほか、人里の植物が多数生育しており、何種類かの鳥の鳴き声も聞かれるなど、学校周辺は比較的自然に恵まれた環境にある。例えば学校周辺の植物を調べることから、特徴ある地質と植生のかかわりへ考えを発展させることも考えられる。学校南側の街路樹が大気や騒音へ与える効果についても、選択教科などの場で扱うことも考えられる。