一.水産学科関係を取り巻く現状について
日本は漁業の生産国であり、消費大国でもある。また一方では世界的にも水産物の超輸入国の一つでもある。一般的には将来にわたり水産資源を確保するためには「採取する漁業」から「育てる漁業」への展開が必要といわれている。
しかし、世界の漁業生産量はいま年間で約1億トン、このうち約2000万トンが養殖のもので、全体としてその数量はここ数年変化していない。
漁業を取り巻く環境は年々悪化しており、海洋、湖沼、河川の汚染は広がり、水資源の枯渇につながる乱獲も後を絶たないという。
「海の学校」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。「海とふれあい、海に学ぶ場の創造」をコンセプトに淡路島の津名町の埋め立て地に建設されるという。ファミリーで利用できるレジャーの一部として、またマリンスポーツであるカヌーや海辺での浜遊び、水産加工に関する製造体験などの各種体験学習、海洋に関する情報を広く提供できるシステムをつくる構想である。ソフト面では体験活動指導者を育成するための施設や情報整備、研修機能を充実させるというものだ。
今やウオーターフロントなどに代表される都市部での開発、夏を中心としたスキューバーダイビング、ウインドサーフィンなどに見られるマリンスポーツなど、水に関する活動事業は増加発展一途である。高齢者のスキューバーダイビング学校も人気があり、愛好者も広がりつつあるという。都内にあるスキューバーダイビング学校の約15%が60歳以上の高齢者だというから驚きだ。10年後ににはダイバーの4人の1人が65歳以上になると見方もあり、将来的に大きなマーケットになることが予想される。
二.学習指導要領にみる水産学科についてー「学習指導要領」より
新学習指導要領の目標においては、次のように述べている「水産の各分野における生産や流通などに関する基礎的・基本的な知識と技術を習得させ水産業の意義や役割を理解させるとともに、主体的に水産業の発展を図る能力と態度を育てる」とある。現行では「生産」に重点をおいていたものを、今回の改訂では流通経済にポイントをおき、水産教育の目標を広くとらえることとしている。また社会の変化や科学技術の進歩に主体的に対応できる能力と態度の育成を図ることを重視するとしている。
〔最近の学科新設、変更例〕
・漁業に関する経済活動、水産食品流通関係
「水産経済」の新設、「水産食品流通」の新設、「水産製造」から「水産食品製造」へ
・バイオテクノロジー等の新技術や情報化の進展に対応
「水産情報処理」の新設、「水産情報技術」の新設、「栽培漁業」の充実
・学科の新設 「情報通信科」「水産工学科」
・学科の名称変更 「水産製造科」から「水産食品科」へ
かっては漁業、缶詰生産などが実習の中心だった水産系の学校は今や時代を反映して、スキューバーダイビングやウンイドサーフィン、ヨットなどのマリンススポーツを授業のカリキュラムに導入し始めている。関西の公立水産高校においては、学校名を「水産」から「海洋」へ変更するなど本格的なCI戦略に乗り出した。それにともない授業内容も改編され「マリン技術」「海洋生産」「水産経済」が登場した。これが奏を呈して定員割れしていた志願者は1.4倍から2.1倍を維持しかなり高い倍率をなり、海洋工学系企業への就職率や海洋系大学への進学率はともに増加したという。全国的にもみても茨城県、新潟県、大分県の水産系の高校も同じくして改編を手掛けるところもでてきたという。
三.水産科への研修旅行実施案
<マリンスポーツ研修旅行>
沖縄などで実施可能。スキューバーダイビングをはじめとする体験プランが可能である。体育専門学科ではないから、運動能力の限界を目指す必要はないが、今後生涯学習の一つとして多くの人への啓蒙的な説明やアドバスが施せればいいと考える。正しいマリンスポーツの楽しみ方を指導できる人材の育成も今後は目指すのはどうだろうか。
<専門技術視察研修旅行>
最近話題になった水産技術に関する最先端技術を研修旅行として視察する。
・「漁港を地域に開放、ウオーターフロントとして整備」
親水施設、水産物直売場、交流広場などを漁港に併設、レジャーボートなどの一時寄港 も受け入れる計画で、1994年より原港(広島)、車力漁港(青森)、七浦漁港(千葉)など30漁港で事業が開始されている。
・「町おこし」
高級珍味のキャビアで有名なチョウザメを町おこしに活かしている市町村がある。養殖 事業で町おこしという一風変わった取組だが、捕獲から養殖漁業への転換の時期だともいえる。
新潟県六日市/山形県村山市/北海道美深町/大分県三重町/岩手県釜石市
また、ユニークな例では、青森県風間浦村ではイカを使ったむらおこしで有名だ。いわゆる「イカ様レース」で、競泳するのはとれたてのスルメイカである。
・「栽培漁業、育てる漁業の最前線を視る」
特に最近話題になった一部を紹介してみる。
高知県室戸市…深層水で栽培漁業。
富山県新湊市…産学協同で日本海型の育てる漁業を目指す。
香川県津田町…海上牧場づくりに力を入れる。
北海道常呂町…ホタテ養殖
佐賀県栽培漁業センター…微弱電力でアワビ、ウニを養殖
滋賀県大津市…近江産キャビア
広島県水産試験場…カキの本場広島で三倍体カキという新しい養殖カキの開発が進んでいる。
養殖で話題性のある企業自治体では、北海道電力、フジキンのキャビア。マルハの養殖 クロマグロ、東北空調管理のバイオメイトシステムで育てた養殖ヒラメ、養殖フグがある。
・「深層海水でアトピー効果」視察
太陽光線が届かない深海付近の海水を利用した「アトピー性皮膚炎治療法」の研究を進めている現場を視察。
室戸市…高知県海洋深層水研究所。
・「海洋療法」を体験
「タラサ志摩」は日本で唯一タラソテラピー(海洋療法)が体験できる施設。健康増進 のため海水の活力を利用した体に優しい自然療法だ。海洋療法は人間の自然治癒力と海にあるイメージを最大限に活かした自然療法であるといわれている。
・「自然塩生産」
海水とともに塩が今ブームである。
海から吸い上げられた海水から自然塩を生産する。市販の塩に比較して自然塩はきれいな海水をそのまま凝縮しているためカルシウムなどのミネラル分も多く、塩分の取り過ぎにも役立つという。
伊豆大島日本食用塩研究大会大島製塩所のほか、熊本県、高知県で実践されている。
<修学旅行における水に関係した環境学習のテーマとポイント>
水をテーマにした環境学習を考えてみた。海洋は貴重な水産資源確保の場として、飲料水の確保、生活の場として、また人々のくつろぎの場として、昔からわれわれは大きく関わってきた。今その環境が経済発展とともに破壊され、変貌しつつある。環境学習という視点から水を中心にした自然の機能や現在の課題を考えてみる。
「河 川」
〔見学地候補例〕
・鴨川(京都)…川から飛来する水生昆虫が川の浄化に役立っている点。
・釜無川(山梨)…武田信玄の造った「信玄堤」は洪水の封じ込めのためではなく、激流の勢いを弱め、流れの方向を誘導する役割だった。
・四万十川(高知)…川を中心に産業が栄え、水産資源を捕獲してきた歴史。また川が海洋にいる生き物(くじら)にまで影響を及ぼしている相関関係を探る。また環境保護と観光促進との共生を模索。
・長良川(岐阜)…長良川堰の建設が上流下流の生態系へ、どのように影響を及ぼすのかを考える。本州に唯一残された本流にダムのない川だったことから、アユ、サツキマスへの影響が心配されている。
〔環境学習活動例〕
・地元の環境保護団体との交流、講演、ディスカッション
「湖 沼」
〔見学地候補例〕
・びわ湖(滋賀)…近畿1400万人の「飲料水源」としての役割から、湖に多種多様な生物群が存在する。また歴史的にも水産資源の確保の場として人々の生活に関わってきた。今、水質の「富栄養化」によるアオコ、青潮の発生は全国の湖沼に共通する課題といえる。
・霞ケ浦(つくば・土浦)…95年「第六回世界湖沼会議」が開かれた。自然そのままの砂浜やヨシの原っぱ。湖畔の水浴場からは、帆引き船がい っぱい眺められた。こんな「泳げる霞ケ浦」を目指して市民活動を展開中。
・阿寒湖(北海道)…アオコの発生、マリモの生息
・野尻湖(長野)…アオコの発生。
・中海(鳥取)…赤潮の発生が漁業に被害を及ぼしている。
・手賀沼(千葉)…霞ケ浦と同様に汚染による被害からの回復。
〔環境学習活動例〕
・地元の環境保護団体との交流、講演、ディスカッション
・伝統漁業法の見学会
・現地研究所への視察、見学
「海 洋」
「海洋の環境問題を考える」
・「関西空港近辺」…“ミティゲーション”という耳慣れない言葉がある。環境庁の翻訳では代償措置とされている。海洋開発工事で失われる自然環境を別の適当な場所に復元し環境への影響をトータルでゼロに近づけようという考え方である。この“巨大ミティゲーション”の実験場として注目されているのが関西空港の護岸工事であった。このような環境保護という視点から全国の護岸工事をピックアップしてみるものいいだろう。
・「鳴き砂」…美しい浜のバロメーターとされている鳴き砂。「全国鳴き砂ネットワーク」も結成された。北海道小清水海岸、気仙沼市十八鳴浜、京都琴引浜、萩市小原浜 など。日本海岸側、三陸海岸を中心に存在する。
・「サンゴ礁」…最近ではサンゴ礁が地球の温暖化防止に貢献しているという観測結果も発表された。しかし一方ではサンゴ死滅が進行しており国をあげた保護施策に取り組む。静岡県沼津市、和歌山県串本付近、高知県足摺岬、高知県大月町柏島をはじめ沖縄で観察できる。
〔環境学習活動例〕
・地元の環境保護団体との交流、講演、ディスカッション
・マリンスポーツを通じて海中体験
・遊覧船による見学
●ご注意:本文の一部分または全部を著作権法で定められている範囲を超えて、著者に無断で複写、複製、転載、データファイル化等することは法律で禁じられています