平成元年から文部省においては、『学習指導要領』の改訂により、小学校から高等学校向けに『環境教育指導資料』を作成し、現場における環境教育のより一層の充実を図っている。
特別活動を含めすべての教科の中で環境学習の内容が取り入れられており、もはや「環境」という言葉を省いては、学校教育というものを語れなくなってきた。中学校の文化祭においても、「環境」をテーマにその取り組みを発表したり、展示会を開催する学校が新聞上で多く見受けられるようになり、その関心の深さが伺える。「環境教育」の一つでもある自然体験活動が、修学旅行の中で大きなポイントとなっているのもうなずける気がする。
しかしまだまだ具体的な取り組みとなると、全国の学校で積極的に実施に至っていないが徐々ではあるが、授業、郊外学習として、また地域の活動の一環として「環境学習」を取り入れる学校が増えてきた。平成7年3月には『環境学習指導資料』(事例編)も発刊され、学校で環境学習を実践する際の参考となる実例が多く掲載されている。今後も学校における環境学習が推進されていくことだろう。
「環境教育の段階的目標」は大まかに、次の3段階で語られることが多いといわれている。第1段階で「関心」(親しみ、気付く)を持たせる。第2段階で「理解」(知る)させ、第3段階で「行動」(参加、実践)できるようにすることといわれている。
今回環境学習の素材として検証する四国の四万十川は、"日本最後の清流"と呼ばれ、最近はテレビでも話題にのぼることが多く、全国レベルで注目されつつある。四万十川の他にも"ホエールウォッチング"や古代遺跡?ともいわれている"唐人駄場"、坂本龍馬などの明治維新志士たちの歴史的足跡などの学習素材も充実している。特に環境学習の素材としては最適といえる。これからの高知県の四万十川方面に修学旅行を検討している学校への学習のポイントを紹介したいと考える。"Think Globally、Act Locally"(地球規模で考え、足元から行動する)"地球にやさしい修学旅行"はこれからのテーマとなるはずだ。
河川はいつの時代にあっても、地域のそこに住む人間の生活、産業と関わっていた。同時に流域とそれらを取り巻いている自然環境はその河川の特徴をなすべく独特の自然生態系をつくってきた。流路や河畔地域での成育、生息する植物や動物に必要な環境についての知識。河川と人間の関わりにおいては、自然とともに共存、共栄していく手法、河川を中心とした産業の振興や伝統技術の発展、人間生活の営みなど、四万十川という河川を通してたくさんのことが学べる。幡多地域では@「自然環境保護」活動、Aこの地域を訪れる人々−交流人口増加と環境との並立、B行政の地域人材活性化や地域振興施策への取り組みなど、「環境学習」というテーマのもと地域をあげての対応をしている。単に修学旅行で訪問するということにとどまらず、グローバルな視野で、地域と自然と人間が将来的に共生するにはという課題に対して、我々自身がどう行動すべきかを学ぶのに最適なロケーションといえるだろう。※幡多地区…・高知県北西部の中村市大方町士佐清水市などの市町村
地域 | 学習テーマ 例 |
森林 (四万十川上流) ↓ ↓ ↓ |
陸地における水の循環モデル始点 ・生息する生き物、生態系 ・森林の保水能力と河川との関係 ・環境への上流ダムの及ぼす影響 ■上流の河川に生息する生物群の観察 ■"カヌー体験"を通して、四万十川流域の自然環境を体験する。 ■"入田遺跡"…・縄文時代から弥生時代に生きた人々の暮らしや歴史を、森と川辺の関係から学ぶ。 |
河川 (四万十川中流〜河口) ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ |
・河川の役割と流域住民の生活との共生 ・河川に生息する生き物、生態系システム ・河川を中心とした伝統漁法の伝承 ・清流保護と地域行政の関わりを知る ・環境保護と地域の人材活用と活性化 ■川と共存してきた"伝統漁法"を見る ■四万十川の地域産業である"屋形船"を乗船体験 ■"トンボ自然館"にて、四万十川に生息する生き物の生態系を学ぶ ■"トンボ自然館"での"環境"をテーマにした講演会 ■学生向け"行政セミナー"の開催「四万十川と地域の暮らし」 |
海洋 (四万十川河口〜) |
・四万十川と海との関わり−海洋汚染への影響 ・鯨と人間との共生−海洋生物との共生 ・自然保護と動物愛護−鯨の生態 ■"ホエールウォッチング"を通して、海の生態系を学ぶとともに体験する。 ■役場の担当者に"クジラ"に関する"自然セミナー" |
◆森林と人間は常に大きな関わりのもとに生活している。森林の役割は私たちにとって、住みよい自然環境を作り出し提供する一方、木材を生産することなどにより社会に有用な価値を与えている。また森林が作り出す緑や大気、良好な自然環境は人間の心身の健全な発達とともに役だってきた。
四万十川上流の山間部は過疎地域が多く、開発が遅れたこと、蛇行した川筋、比較的多雨地であることが、四万十川の自然形成に影響している。
地域 | 学習テーマ例 |
森林 【上流】 上流 ↓ 四万十川中流 【海へ】 ↓ |
■「上流の自然生態系、森林と河川との関係」 上流地域は、一つに蛇行区間が多く、瀬と淵が連続して流れが比較的早い。上流地域の生物群は、川底に大きい石が多く、 夏でも水温が低いため、低温に適したイワナ、ヤマメなどがすむ。 環境サイクルの中では、地面に降った水は森林の地表から流入し、保水機能を果たす。四万十川の森や林は自然の堤防として、 また昆虫や野鳥の宝庫として、古代から人間の暮らしに古くから関わっている。 ■「河川を中心とした伝統漁法の伝承−上流−」 四万十川上流は、支流檮川など古くから開発された発電利水域の他は、流量が豊かで、流域に水の汚染をもたらす工場や都市 も少なく、また魚類のそ上を誘う内湾的な河口が直接黒潮海域に連なっているため、鮎をはじめ魚族の屈指の多産地とその漁法 が発展してきた。 《四万十川・上流地域》 ・「アユ漁−火光利用建て網、瀬張り、網友釣えいなどの掛け釣り」 ・「うなぎ漁−ころばし、石ぐろ」 ・「ゴリ漁−上り落しうえ」 ・「ツガニ漁−ツガニかご」 ■「カヌー体験を通して、四万十川流域の自然環境を体験する」 「四万十川中流から下流にかけての穏やかな流れの中で、カヌーにのって生きている"水"に触れる。川は最も近い自然との"ふれ あいの場"である。川の中に生息する生物や魚を直接観察することで、川の自然をよく理解し、川にやさしく、また川の自然を復元し ていくことへの気配りをもって水に親しむ |
◆古来から人間は河川と深い関わりを持ってきた。河川を生き物としてとらえ、人間環境としての河川の意義を水利用や治水、灌漑に限らずより広い観点からみつめることが大切である。河川は源流から河口までというシステムを形成し、流域システムは地球上の水が循環するシステムの一環として自然体系に重要な役割を占めている。四万十川は中世には上流の森林地域の開発とともに水運が発達してきたが、河口付近の土砂の推積が多く、過疎地帯であったため、近代港湾としてはあまり発展しなかった。かえってそのおかげで随所に、自然がよく残された清流で、魚種が豊富なことでも知られており、伝統的な漁法をうむことになった。
地域 | 学習テーマ例 |
【上流】 四万十川中域 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 四万十川河口へ ↓ ↓ |
【海へ】 ■「河川の生息する生き物、生態系システム」 中流から下流にかけて瀬には石が多く、流れはゆるやかで底には、泥や砂が多い。石に付着した藻類がよく、繁殖し、 これを食べるカゲロウやトビケラの幼虫などの水生昆虫が多く見られる。特に清流との関わりの深い"トンボ"はたいへん特徴的である。 またこの付着藻類の成育する瀬にはアユが生活し、ボラ、チヌ、スズキなどの多彩な汽水魚がみられる。 また河口付近の海水の浸入があるところでは、アオノリなどの海藻が成育し、地元の名産物としても商業振興につながっている。 ■「河川を中心とした伝統漁法の伝承」 古くから河川は、そこに住む人々を育て、文化や地域の伝統産業の発展に関係してきました。上流から河口に至る随所で"伝統漁法" が見られる 《四万十川・中流地域》 ・「アユ漁−火光利用建て網、しめなわ漁、投網まわし打ち」 ・「うなぎ漁−柴づけ」 ・「ゴリ漁−がらびき」 ・カワエビ漁−柴づけ漁」 ■「環境保護と地域の人材活用と地域活性化」 中村市では、四万十川の自然環境保護と環境学習型修学旅行の実施という相矛盾するテーマのもと、その共生を図っている。その中 で、地元の担い手である人材の活用、育成に努めている。伝統漁法を継承する"漁師"さんや自然保護活動のバックアップ、トンボ自然 館などの環境施設の運営など、市と地域住民との一体となった取り組みが、地域の活性化や産業振興をもたらし、ひいては幡多地区 全体への波及効果を生みだそうとしている。 |
◆河川の開発は、河口より先の海へも影響している。例えば上流のダム開発が、下流での川床の侵食をもたらし、河口付近の海岸では侵食が発生することになる。
同時に海に流れ込む水の量が減少すれば、工場や家庭などからの排水が浄化しきれず、水の悪化が進行し、海岸の生物体系に影響を及ぼすことになる。水がきれいなゆえにたくさんの魚が存在している、クジラたちがこの魚を目当てに回遊するといった四万十川による恩恵も見られる。
地域 | 学習テーマ 例 |
四万十川 河口 ↓ ↓ ↓ ↓ 太平洋/海洋 |
■「四万十川から海へ」 生活排水や産業排水は河川を通じて海に流れ込んでいる。海洋における赤潮の発生や漁業被害、海洋汚染へ影響している。 海洋汚染は流れのある河川と異なり、汚染の除去は困難です。流域行政の河川保護施策との関わりから、海洋の環境保護 ひいては遊泳するクジラ等の動物や生物体系への影響やつながりを学ぶ。 ■「クジラウォッチングと地域市町村−大方町−」 四万十川が流れ込む大方町沖で回遊する鯨。これを町の活性化に役立てるため役場はクジラウォッチングを企画。これは低迷 していた地域漁業の活性化と人材の活用を振興する役割も果たした。漁業協同組合の漁師さんで結成そる"大方町遊漁船主会" を中心に地元の方々が腕を振るっている。大方町では漁協の協力でクジラの回遊や生態調査を行っている。 ■「クジラウォッチング」 かつて、人間にとっては捕鯨の対象でしかなかったクジラが何故「見ること(ウォッチング)」の対象となったか。また、ウォッチング の魅力はどこにあるのだろうか。それは、躍動する巨体の豪快さと優雅さを見ることによって解明することができる。地球での最大 の哺乳動物クジラへの崇拝の念にも似た気持ちの高まりを必ず感じさせてくれるに違いない。今や"環境のシンボル"として捉えら れ環境保護の大役を担うクジラ。環境サイクルの中から四万十川と関わりから学習する。 |
地名 | 見どころ | 期待と効果 |
土佐清水 | ■竜串海中公園〔サンゴ博物館,足摺海底館,海洋館,海のギャラリー〕 ■見残遊歩道 ■ホエールウォッチング ■足摺岬〔散歩コース,ジョン万ハウス,亜熱帯植物園〕 ■唐人遺跡〔唐人石,唐人駄場・ストーンサークル〕 ■魚市場 |
□自然体験 □環境学習 □班別自主研修 □歴史学習 □産業学習 |
中村市 | ■四万十川周辺〔屋形船,周遊サイクリング,遊歩道ハイキング,不沈橋,カヌー体験,魚釣,飯盒すいさん〕 ■市内歴史探訪〔中村城,一条教房,一条神社,玉姫の墓,幸徳秋水〕 ■トンボ自然館〔散策,ボランティア,環境テーマ講演会,交流〕 □環境学習 |
□自然体験 □交流活動 □班別自主研修 □歴史学習 □産業学習 |
大方町 | ■ホエールウォッチング ■ 砂浜美術館 □環境学習 |
□創作体験 |
宿毛市 | ■サニーサイドパーク | □自然体験 |
高知市 | ■市内研修 〔高知城散策コース,五台山散策コース,桂浜散策コース,まほろばのみち散策コース,坂本龍馬歴史探訪コース,土佐和紙コース〕 ■龍河洞 |
□班別自主研修 □歴史学習 □産業学習 |
〔参考文献資料〕
『修学旅行のすべて』財団法人日本修学旅行協会1995年
平凡社百科事典
『日本経済新聞』1995年朝刊・夕刊
『環境教育指導資料(中学校・高等学校編)』(文部省)1991年
『環境教育指導資料(事例編)』(文部省)1995年
『環境教育概論』(培風社)1992年
中村市商工観光課発行資料各種
大方町発行資料
『PRESS Kochi』1994年
『THIS IS 読売』1994年
Presented by:長月白露
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