一.いじめ問題を取り巻く現状
1995年は教育現場における「いじめ」が取り上げられことが多かった年のように思う。ほんの一時期表面上は落ち着いたように思えた「いじめ」問題が、残念ながらまたクロ−ズアップされた形だ。もしかしたら、落ち着いたのではなく世間一般にマスコミなどに取り上げられた無かっただけかもしれない。文部省の調査がそれを示している。
文部省の1994年度の調査では、94年度の公立の小中高校で起きた「いじめ」は1993年度に比較して2.6倍、5万6601件と激増したという。その中でも中学校では過半数の学校でいじめが起きている。生徒数減少に頭を悩ます東京都内の中学校では、生徒獲得のため学校案内に「“いじめ”はほとんどない学校」とPRに乗り出したと聞く。このテ−マへの視点は、教育学的な見地からの「いじめ」問題の究明や解決策の提起はここではしないが、現状をふまえて検討の視点を考えてみたい。もちろんこの問題は根が深く、長期にわたっているだけに早い時期の根絶は不可能であろう。私は教育学の専門ではないので心理学や生徒指導面、対応策では論じることはできないが、この「いじめ」問題について素人ながら多少なりとも気付いた点を書いてみた。
政府は1995年の予算に「いじめ対策費」として異例の4億円を計上した。今や社会問題化した「いじめ」問題は早急に対処すべき緊急課題となっていた。各自治体でも深刻な「いじめ」問題への解決に向けて教育委員会や行政レベルでの取組が行われつつある。しかし、1995年後半に連続して起こった「いじめ」を苦にした自殺など後を絶たない。総理府が1995年6月に全国の20以上の男女3000人を対象に実施した「少年非行に問題に関する世論調査」では、「特に問題だと思う少年非行」について、「いじめ」と解答した人が最も多く全体の64%(複数解答)という結果になった。この数値は前回調査より8%増えたという。
とりわけ子どもの「いじめ」問題についての有効な解決策として、アンケ−トによると
■「家庭でのしつけや教育の充実」(54%)
■「学校のがいじめへの取組みの強化」(49.9%)
■「家庭・学校・警察などの連携強化」(37%)の順になっている。
1995年にはいって文部省は、いじめに情報拠点として「いじめ問題対策情報センタ−」を新設したり、7月には小中学校、高校の学校管理職に対して、いじめを題材にした学校の危機管理問題を討論の課題としても盛り込むよう指導。また、12月には全国の教育長会議を開催し、いじめ問題に対する取組の徹底を指示した、など対策は一見先行しているようにも映るのだが現実はどうか。
1996年の政府の予算において、深刻化する「いじめ対策費用」に対して当初の要求額5億3000万円から3倍近い14億4000万円が計上された。そして学校へのカウンセラ−派遣事業として、現在全国141校の派遣校を506校まで増やした。その他「いじめ問題パンフレット」を80万部を作製配布や教員に対してのいじめ解決のための実践的研修を実施。また、学校や警察、人権擁護機関の連携のもといじめの解決の実践研究モデル地区を指定するという。
はっきりとした解決策が見出だせない感のある課題だけに、教育現場の教職員や子どもを持つ父兄などの困惑や不安は隠せない今、微力ではあるが一助になればと考える。
二.「いじめの問題と修学旅行を考える」
従来修学旅行という学校行事は、生徒に集団活動を通して集団生活の規律や公衆道徳を身に付けさせ、豊かな情操教育の場であった。それは今も継続されていることと考える。しかし、先出の総理府の世論調査では「いじめ」問題に対する学校の問題点として一位に「教師と生徒の信頼が薄れている」(53%)がトップにあげられている。修学旅行は別の見方をすれば、通常の学校生活の中ではできない生徒と教師、友人同士の人間関係を深め、学校生活をより豊かにすることに役立ってきた。いま生徒と教師の人間関係の譲成が困難な状況にあることは否定できない。総理府の世論調査でも進学指導が中心で時間がないことや教師自身の資質や使命感の欠如も指摘されている。
しかし学校週五日制の影響で特別活動時間の縮小が余儀なくされている現在、教師と生徒のコミュニケ−ションをはかる術は少なくなりつつある。教育こそが「いじめ」をなくし良好な人間関係を確立していくなら、生徒と教師の学校授業時間を超えた特別活動にもっと意思疎通の機会を重点を置くもの一手ではないだろうか。
三.学校教職員を対象にした視察・訪問案
「いじめ」問題に対して積極的に取り組んでいる教育者が海外にいる。海外の先進事例を学ぶことは、いま学校現場が抱えている課題解決への何らかのきっかけとなるかもしれない。
最近の事例として、海外の国で次のような活動をしておられる方がいる。国の事情は異なるものの何等かのヒントになることだろう。これらの方々への訪問可否は別として、外国での研究がそのまま日本で適用できるわけではないが、これらの活動や研究を参考にして、それぞれの教育現場に応じて解決策を講じるのはどうだろう。
■イギリス「ピ−タ−スミス教授講義」(シェフィ−ルド大学)
「いじめ問題と予防」について研究をしている。1994年後半には来日して教育関係者を対象に数十回の「いじめ防止セミナ−」を精力的に開催。日本での教育界での知名度も高い。
■ノルウェイ−「ダン・オルウェ−ズ教授講義」(ベルゲン大学)
最近邦訳された教授の著書『いじめ、こうすれば防げる』が話題になっている。
ノルウェイ−は1983年から政府プロジェクトで「いじめキャンペ−ン」が導入された結果、いじめが減少したという成果を持つ「いじめ」問題の先進国でもある。
この解決についてのポイントは二つで、一つは「教師、親の側が『いじめは絶対許さない』という強いメッセ−ジを一貫して子供たちに送り続けること」。二つには「被害者が大人たちは自分を助けてくれると信頼できるようにすること」だと教授は述べている。
■「ヨ−ロッパいじめ問題協議会」訪問
現在イギリス、ノルウェイ−を中心にポ−ランド、スペイン、イタリア等との共同研究のネットワ−クを広げている。
1987年設置。
■イギリスの民間団体訪問
・「キッドスケ−プ」…いじめ対策マニュアルやビデオ、書籍を出版する。
・「ABC」…いじめを受けた母親が10年前からはじめた。主に電話によるカウンセリングで、親からの相談が多いという。
ロンドン北部のある中学校では、生徒同志がいじめを相談し合っているという。上級生自身がカウンセリラ−となり、いじめの解決手法を生徒自身に任せているという。これ によりいじめの増長を防いでいるという。
■アメリカ ニュ−ヨ−ク州
アメリカでは多数が一人の者をいじめるというのではなく、一人が複数の弱い者を次々 にいじめるというから、日本とは多少本質的に異なる面がある。
ニュ−ヨ−ク州では、学校にカウンセラ−を設置して、いじめた生徒に対して成育歴や 家庭環境まで聞き出し、絵を書かせたり役割交換の劇(ロ−ルプレ−)などの心理治療 を行うという。これによりいじめによる自殺はほとんどなくなり、いじめ自体も減少し たという。学校の先生ではなくカウンセリラ−という専門家によるいじめの取り組みで ある。_
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