一般旅行論−『1995年国内旅行を取り巻く状況』


1.旅行業界を取り巻く社会的状況

 1995年は阪神大震災にはじまり一連の社会不安などの影響を受けて、回復しかけた旅行需要もスロ−ダウンした。元気な海外旅行に、湿りがちな国内旅行という構図がすっかり定着した感じがする。旅行業界をとりまく社会状況を見てみると、急激な円高のあおりで失速しかけた日本経済は、夏以降円高是正と利下げとなった。総額14兆円の経済対策でやや持ち直し、年明けから緩やかな回復軌道に乗る公算が大きいといわれている。しかし、バブル崩壊以降の経済構造の変化で、刺激策の効果が全体に普及しにくくなり、あらゆる分野で好不調の二極分化が起きている。消費者の動向では、消費者によるより一層の選別志向が強まり、売れる商品と売れない商品の格差が広がっている。生活不安度指数は今春以降は一進一退だったが、「この先、家計収入は増えないのではないか」という不安感は根強いといえる。一方で「商品や店舗が魅力的なら買う」という購買意欲は健在である。

●好調な海外旅行

 海外旅行は現在も相変わらず好調である。国内旅行、外人旅行などが低迷を続けるなか取扱い額だけは堅調な伸びを維持している。しかし、利益の方は取扱いの伸びとはやや介離している。いわゆる薄利多売状態が本当の姿だろう。1995年後半からの円高是正傾向は、旅行やホテルなどの法人需要に好影響を与えそうになってきた。好調な個人海外旅行も1ドル100円程度なら影響はなく今後も安定した伸びをしめすであろう。一方でパック旅行の価格低下は底をついた感がある。海外の人気のある方面など時期よってはやや値上がりしたコ−スもでてきた。今後は価格の安定化に向かうだろう。

●低迷する国内旅行

 国内旅行は1995年も低迷を続けている。この国内旅行の不振が関連する業界へも影響を及ぼしている。価格破壊にあけくれた旅館ホテルなどの宿泊業界も行き着くところまでいった様相を呈している。国内旅行の新商品に共通するキ−ワ−ドは「低価格」「泊食分離」「時間節約」だといわれているが、宿泊施設においては魅力付けにアイデアフラッシュである。旅館の温泉の風呂や客室の昼間利用、有名旅館やホテルでの一泊一万円前後での宿泊などである。交通機関の正規往復料金とほぼ同額で宿泊と往復が可能になる場合など、つまりほとんどが「低価格化」としている点が特徴。国内旅行不振での宿泊施設にとっては、顧客獲得が経営、営業政策上の最優先課題である。旅行業者はこれに着目したことで、宿泊施設への送客力を武器に特別企画プランを設定し、代わりに客室仕入れ価格を大幅に引き下げた。旅行業者は旅館ホテルに代わって宿泊料金を決める価格主導権を獲得した。旅館ホテルの宿泊機関との価格交渉が旅行業者主導で進むなか、宿泊施設はこの事態を余り歓迎はしていない。製造業と流通業界のスタンスが逆転したように、旅行業者の観光産業界 での”流通革命”を強調している。運輸業界における航空会社の「幅運賃制度」の年内導入が決まり、価格低下により一層のはずみをつけたい。今後国内旅行の復活の鍵をにぎるのはこの交通機関の規制緩和、料金低下であろう。しかしながらこの低価格の流れに対して、一部のJRでは料金値上げの申請が認定されたという。
 法人需要については、景気の低迷により法人需要が落ち込む。職場旅行も部単位から課、係単位に縮小。小グル−プ化が進行している。これはもともと数人のグル−プが十人前後のグル−プになったのではく、3,40人の団体が細分化されて数人のグル−になったものと推測される。旅行業界がインタ−ネットへ進出する。JTB,近ツ−大手がインタ−ネットで予約開始した。旅行会社のメリットとしては、パンフレット代や人件費、支店や営業所家賃を削減できる点。また旅館ホテル業界の思惑としては、旅行会社を通さず顧客を獲得する方法を探っているのが本音だろう。われわれの目はいま最も身近かな国々、アジアへ向いている。運輸省運輸政策局観光部が「訪日外国人旅行者倍増計画(案)」の概要をまとめた。年間350万人から700万人へ「国際観光交流促進地域(ウエルカムタウン)を創設し、政府登録の旅館ホテルに対して、税制面で優遇措置を講ずるとした。また、APEC大阪会議開催では、観光と環境問題に関する調査や観光産業の振興策を検討、貨物旅客に関するデ−タも交換の促進、入国手続きの簡素化を検討した。1996年のキ−ワ−ドは“アジア”、今後日本人の国 内旅行が振るわないのなら期待すべきは、アジアからのお客様かもしれない。

●『国民白書』から見る私たちの生活志向

 1995年秋『国民白書』が公表された。この『国民白書』から私たちの生活志向が伺える。経済的には成功しながら生活面では豊かさを感じられない。満足感はいまだ遠いとしている。企業に忠誠を尽くす「会社人間」から気に入った仕事を自分で見付け出す「仕事人間」へ移行しつつある。多様な生き方を選択する時代へと変わった。家族の機能は「やすらぎ」を与える場であるとしている。また一方では個人生活より「社会」を志向し、何か社会の役に立ちたいと願望している。このような日本人像が浮かんでくる。このような人々が望む旅行の形態を旅行業者は考えていく必要がある。

2.旅行業界の今後の方向性と取り組み

〔旅行業界としての取組み〕

 航空業界の「幅運賃制度」の年内導入−航空運賃は低下するところが多くなる。残るはJRのみなのだが、北海道、四国、九州のJRにみられるよう値上げという時代に逆行した事態が生じている。宿泊や食事の「低価格化」傾向が進む中、交通機関とくにJRでの料金低下が国内旅行需要喚起の要因として不可欠、最後の砦である。泊食分離」による宿泊料金の「低価格化」が進行しているが、今こそ旅行会社は「低価格化」による取扱い人員の増加ではなく、付加価値付けのある商品づくり、市場の拡大に取り組むべきではないだろうか。個別の旅館ホテルでの取組には限界があるため、自治体とのタイアップにより地域を活性化させ、国内旅行需要を喚起するしかけなどが必要。国内観光促進協議会の答申にもとづき各種ワーキンググループが設置された。

〔設置されたワ−キンググル−プ〕
・グリ−ンツ−リズム事業ワ−キンググル−プ
・エコツ−リズム事業ワ−キンググル−プ
・滞在型、拠点型旅行促進事業ワ−キンググル−プ
・外客受入広域モデルル−ト事業ワ−キンググル−プ
・国内旅行低廉化事業ワーキンググループ

3.旅行商品ついての方向性を探る

 1995年、新聞、雑誌を賑わしたキ−ワ−ドを挙げてみた。今後も旅行業界の商品造成を語る上でコンセプトとして考えられるだろう。以下その例を一部紹介する。

「こだわり」
 他人には価値が分からないが、本人にとっては価格を度外視しても欲しいと思わせる魅力がある旅行商品。“ベストワン”より“オンリ−ワン”商品でどんどん差別化をはかる必要があるだろう。

「選択の自由」
 旅館ホテルにおいて「泊食分離」が話題になりつつある。夕食における選択の柔軟性が欲しい。最終的にはだいたい同じ料理にいきついたとしても、消費者が選んだ、納得したと思わせる旅行商品が欲しい。また売る側も販売の段階でカウンセリングする必要もあるのでは。

「付加価値創造」
 宿泊業界においては、プラスアルファが提供できることは他の旅館ホテルとの差別化につながる。旅館ホテルにおける最近の付加価値付けの傾向として「周辺情報の提供」があげられる。価値ある情報には対価として有料情報にしてもいいのではと思う。このことは、もちろん旅行商品の造成側にもいえることである。

「製販同盟」
 宿泊業界と旅行エ−ジェントが一緒になって商品造成を考えるスタンスが必要。製造業と流通業にかってみられたような一方通行の関係は通用しない。お客様に一番近い近いものがリーダシップをもって業界を引っ張っていくべきなのだ。またお客との旅行代理店の販売過程においても、お客と一緒に旅行プランを素早く組み立て提供でき、お客にその満足度がはかれる体制こそが旅行代理店のカウンタ−に必要だと思うのだが。

「料金体系の簡素化」
 現在、旅館ホテルの料金体系は曜日・人数により料金設定が複雑になっている。しかしこの料金設定の根拠は、一般消費者には明確になっておらずあやふやである。

「リ−ズナブルな値段」「内容の満足度の高さ」
 旅館ホテルの値段については、買い手側が納得する内容に見合った料金が求められている。個人それぞれに「これなら払ってもいい」という価値基準があるとするなら、それに見合った料理やサービス内容があるはず。しかし料金に対するサ−ビスへの満足度は一律ではないから、一概には標準化できない。支払った代金(期待)に対するサ−ビス(見返り)のギャップが少なければ満足度が大きいということか。絶対的な尺度ではなく相対的な支出に対する満足度をいかに高めるかがポイントか.

「プライベ−トな空間」
 渋滞でも車がいいというお客様がいる。気のおけない仲間と同じ時間と空間を共有できるからだ。
 例えば旅館ではどうだろう。仲居さんがつかないプライベ−トな宿泊プランがあってもいいのではないかと思う。食事はすべて食券方式にして畳の雰囲気のみ味わいたいという種類のもの。いわば“旅館のホテル化”といえるだろう。従来の旅館に宿泊する本質とはかけ離れてはいるが。

「ファミリ−志向」
 キ−ワ−ドの中でも今後も最も取り組みが期待できるだろう。家族三、四人で行ける旅行商品造成は必需商品である。家族の絆が稀薄な時代だけに、非日常的な空間の場である日本旅館で家族の結束を深めるという変な現象もでてくるだろうか?

『コマダム』現象
 コマダムという言葉が社会的に認知されているかどうかは別にして、コマダムとは、マダムの一歩手前の三〇歳前後の若い主婦のことをいうらしい。1996年旅行需要の回復を鍵を握るのは、この層とも言われている。購買力も旺盛で、コマダムの親が彼女らに資金援助している。夫の所得が頭打ちになり伸びが期待できないなかで、彼女らは豊かな消費生活を保証している。彼女らをひきつけるキ−ワ−ドは「好奇心」「行動的」「高感度」らしい。こんな旅行商品なら彼女らを釘付けできるか。

「マルチメディア」「インタ−ネット」
 ちょっと前まではニュ−メディアといっていたのが嘘のようである。近い将来を語るのにこのキ−ワ−ドを抜きには語れないだろう。このキ−ワ−ドだけで旅行業界の本が一冊書ける程の素材である。もしパソコンが近い将来、家電の一つとして一般家庭に普及すれば、旅行代理店のチケットカウンタ−は大幅に縮小されるだろう。旅行代理店に来るお客の約8割りは「○月○日の○行きの○時○分ひかり○号の切符が欲しい」という来店目的のはっきりしたお客だといわれている。もし、このようなお客が必要な時に自分の家からパソコンでアクセスして予約が可能になるのなら、わざわざ旅行代理店まで足を運ぶ必要も当然なくなる。地方や交通が不便な地域にはもってこいのシステムである。
 しかし、旅行代理店は消滅はしないだろう。かって高性能の洗濯機が普及したからといって、町のクリ−ニング屋がすべて消滅したであろうか。同じように旅行代理店も、より専門特化してより付加価値の高い情報を販売するために生き残る。それはカウンセリング、アドバイス、プロポ−ザルという付加価値付けのプラスワンが提供できる分野で、セクションのみが存続していくだろう。そしていつしか交通機関のチケット、宿泊券という単品販売という分野において、もはや旅行代理店は不要になるのだろうか。

「ノ−マライゼ−ション」
 障害を持つ方の旅行への参加意欲は潜在的にあった。宿泊観光施設側の障害者の方々の受入れ体制の不備等により旅行業界も積極的ではなかった。しかし、ここ数年ノ−マライゼ−ションの掛け声のもと、社会全体としてその障壁は次第に減りつつある、しかし一般的にはまだまだ情報が不足がち、交通、宿泊、旅行業界等の受入れ側の意識改革は不十分といえるだろう。今後は政府をはじめ民間レベルからの取組みが活発になるにつれ、本来の意味でのノ−マライゼ−ションが実現するだろう。旅行代理店の中の一部では、「障害者マ−ケット」という認識のもと障害者の方に高額の旅行商品を販売している業者もあるときく。特別な手配や配慮をするため別途料金が必要というのが理由らしい。これが本当のノ−マライゼ−ションの姿であろうか。

「選択の多様化と特定旅行商品への集中化」
 「十人十色」は過去の話しとなった。今や旅行は個人が多種様々な旅行を求める「一人十旅」以上に「一人百旅」の時代となった。しかし、消費者は同じ旅行には二度とはいかず、その選択はえてして新しい流行に集中するから「十人一旅」「百人一旅」である。多様化と集中化という相矛盾する現象が発生する。

「ボランティア」志向
 個人を重視しながらも社会に対して何か役立ちたいと考えている。国内や海外での環境保護ボランティア、遺跡保存、井戸掘り、クリ−ンアップ、医療行為アシストなどその参加意欲は高いといえる。

<1995年の終りにかえて>
 現在は観光産業に携わる者にとって、“売れない時代”といわれている。バブル崩壊後の価格破壊にみられるような単に価格が低い商品が売れている面は否定できない。しかし価格面だけをとらえれば消費者は安い商品だけを買うのではない。現に世界一周のクル−ズの旅や、日本の名旅館の宿泊などにみられる価格帯の高い商品群も高い伸びで売れている。商品コンセプトがはっきりしたもの、分かりやすい商品が売れている。
 潜在的な消費需要はあるにもかかわらず、売れないのは“買いたい商品・サ−ビス”がないのが原因だといわれている。今後は“お客様が何を望んでいるのか”を視点においた商品造成がポイントである。高度経済成長時代において主流であった製造した商品をいかに販売するのかといった製造サイド、販売サイドの論理や都合は通用しないのは明らかである。
 また一方では、販売手法においても商品を積極的に売り込むことより、お客様にその商品が欲しくなるような仕掛けが必要かもしれない。販売促進はもはや死語?であり、買い手の側にたった「購買促進」でのスタンスが必要だと考える。つい最近までは「商品を売る前に自分を売り込め」みたいな論理もあったが今はいかがなものだろう。
 ナンバ−ワンより自分だけのオンリ−ワン商品。オンリ−ワンにしあげるコ−ディネ−ト力がカウンセリング力が旅行業界に要求されているのではないだろうか。

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Presented by:長月白露
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