更新されるべき「犠牲」観

ナチスのユダヤ人迫害の時に、殺される筈のユダヤ人の身代りとなって死んだカトリックのコルベ神父の話があります。有名な話でもあるので詳しい話はここでは省略します。いずれにしてもコルベ神父の行為は、「キリストの命を投げ出して魂を救う『自己犠牲』の愛の行いである」戦後賞賛され証されてきました。ところが、問題は肝心のコルベ神父の身代りによって辛くも命を儲けて助かった人はどうしているかというと、今は戦後の社会に流されて苦しい生活の中で「あの収容所であの時死んでいればよかった」と言って呟いているのだそうです。

ソロモンは「私はなおこれを求めたが得なかった。千人のうちに一人の男子を得たけれども、そのすべてのうちに一人の女子をも得なかった」(伝道の書7:28)としていますが、せっかく自分の命を投げ出しても、救った一人の人はそれを有難迷惑と思っているかもしれません。「それもまた空であった」と言う通りです。教会の中でもよく『自己犠牲』『滅私』の精神が高揚され賛美賞賛されることがあります。私の若いときにも青年で「我々が教会組織の歯車として滅私奉公する事が神への奉仕である」と信じているような人に出会った事があります。しかし、歯車になっても、歯が擦り減って来ると取り替えられるだけであり、この人も使うだけ使われたようになって信仰から去って行ってしまわれました。自己犠牲を求めるメッセージも教会の講壇から聞かれます。自己犠牲を払うなら、神様の祝福があるとも説かれます。そして自己主張を放棄してひたすら教会活動、ボランテイア、人助けに奉仕することが自己犠牲の実践であるかのように言われている事すらあります。しかしながら、これだけ教会の中で徹底して「人助け」「犠牲」「無我の奉仕」ということが言われてきたのであれば、教会はもう少し祝福されてもいいのではないかと疑問に思ったことはありませんか。『自己犠牲』の美徳を説いていながら、私達はどうして『自己犠牲』のメリットを公平にシェア出来ないのかと疑問を感じたり葛藤されたことはありませんか。

この問いについて私は次のように考えました。次の聖句はあわれみの伴わない自己犠牲(それ自体が愛を反映しているとは限らない)や外面だけの宗教的献身を戒めています。  

また、サウル王が敵を家畜をも含めて全滅させよとみ言葉を与えられたのに、肥えた家畜だけを生かして残していたのに対して、神がサムエルを通して伝えたメッセージが次の聖句です。

つまり、大切な事は、神の声に従うと言うことであり、いたずらにそれこそパウロではありませんが「空を打つような拳闘」のごとき、自分は何の為にこれをしているのかわからないような『自己犠牲』(周りの人はそれでも「そうするのがみこころです」と言って不注意に煽るかもしれません)や、サウロのように自分で勝手に「こうすれば神が喜ばれるだろう」と思いこんでする『自己犠牲』は無益な「燔祭」に他ならないというのです。一番大切なことは、オートパイロット的に『自己犠牲』を称揚するのではなく、あなた自身が神のこれをしなさいという召しと確信を受けてそれをしているのか?ということなのではないでしょうか。


これは一つの例話としてお話するものですが、私の家内は、私と出会う前に、母親から結婚資金にとして百万円をもらい、「結婚式のために大切に取っておきなさい」と言われました。そんな時に、ある教会組織伝道機関でレストランを開設する事になり、立ち上げ資金として百万円必要だという事が知らされました。彼女は、そんなことは私には関係の無い事であると思っていましたら、ある日の朝聖書を読んでいると、さかんにみ言葉が示され、どうやら神様がその百万円を彼らに与えるように言っておられるという事がわかりました。彼女は「これは母親から預かった両親の血涙のこもったお金であり、しかも誰かの思い付きにしか見えないような成功するビジョンがあるとも思えないレストラン計画にお金を捧げても、どうせそんなに当事者達から感謝されないし(もらって当り前位に思っている不遜な人達であったかも知れない)たいした有益な使い方もしてもらえないのではないか」と言ってしばらく祈りの内に神と格闘していたのですが、結局神に折れて、その百万円を全額捧げました。捧げると、何か急に晴れ晴れしたような気持ちになり、するべき事を終えたと言う感じになって、たとえ誰が感謝しようがしまいが、悪意に解釈しようが気にならなくなりました。そうして、彼女が神の声に聞き従ってすべてを捧げてほんの一ヶ月立って、彼女は私と不思議な出会いをし、結婚に導かれたのです。考えてみるとそれは神は人が聞き従うことを、人間の意志判断から出る犠牲よりも喜ばれる事実の証だったのです。私は、同じような事をあなたも経験するべきであるとは主張はしませんが、そういう経験が出来るようになれることは素晴らしい事であると思います。



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