第一章 エホバの証人の医学・医療に関する教えの歴史

 19世紀後半のアメリカで、ものみの塔の宗教を創始した、チャールズ・ラッセルは、多くの19世紀の新興宗教指導者と同様、科学の神秘に魅せられた一人でした。そのよい例は、エジプトのピラミッドにエホバの神秘が隠されている、プレアデス星団にエホバの座がある、等という、現在のエホバの証人は異端とするような教えに、端的に見られます。しかし、彼は人間社会の科学技術の発展に対しては否定的な見方は持っていませんでした。

 1916年にラッセルの死後、第二代目の会長となったジョセフ・ラザフォードもまた科学技術に魅了された一人でしたが、彼が会長である間に出版された多くのものみの塔の出版物には、数多くの科学技術関係、特に医学・医療に関する記事が連綿と掲載されました。その推進役となったのは、ラザフォードの右腕として「黄金時代」(現在の「目ざめよ!」誌の前身)の執筆に中心的な役割をはたした、クレイトン・ウッドワースでした。彼は、ラザフォードと共に、1917年に出版された興味深い出版物「終了された秘義」を執筆したことでも有名です。

 ウッドワースが中心的な役割を果たした、1923年から約三十年間のあいだに、ものみの塔協会は非常に興味深い、医学関係の記事を掲載し続け、その幾つかは、現在のエホバの証人の信仰生活にも影響を与えています。その興味あるものをいくつか取り上げて見ましょう。

朝食について

朝の食事に適した食物はない。朝食(breakfast)は決して絶食(fast)を破る(break)時ではない。毎日の絶食を昼時まで続けなさい。‥‥毎食の二時間前にたくさんの水を飲みなさい。食べる直前は飲んではいけません。食事の最中はほんの少しだけ飲むこと。バターミルクは健康的な飲み物で食事時や食間に飲みなさい。食後二時間が過ぎるまでは風呂に入らないこと。食前一時間以内もよくない。コップ一杯の水を風呂の前と後に飲みなさい。(「黄金時代」1925年9月9日784−785頁)

日光浴について

日光浴は健康と長寿に最も役立つ入浴法である。しかし他の良いことと同じように、間違ったやり方や、やりすぎは、その効力を損なう。午前中のなるべく早い時期に日光浴をすれば、より効果があがる、というのは治療効果のある紫外線がより多く浴びられるからだ。(「黄金時代」1933年9月13日777頁)

肝臓について

いわゆる医科学と言われるものはまた「発見」をした。‥‥素人は肝臓の構造も機能も何も知らない。もしそれを知っていたら、医学の愚かな発見によって、肝臓を食べることがいいなどと、信じこまされなかっただろう。(「黄金時代」1929年1月9日245頁)

寝る方向について

寝るときは右下か仰向けで寝ること。頭は北に向けて寝なさい。そうすれば地球の磁石の流れの恩恵がえられる。(「黄金時代」1929年11月12日107頁)

オリープ油について

どれだけの人がオリープ油の治療効果を知っているだろうか。‥‥私はオリープ油の使用により肝臓病、胆石の直った人を一人以上知っている。‥‥私の友達は盲腸のあたりの痛みに長年悩まされていたが、オリープ油の治療によって完全に直ってしまった。(「黄金時代」1935年7月5日632頁)

病気の起源について

人間の全ての病気は腸から始まる。(「黄金時代」1928年11月28日133頁))

 これらの例で見られるように、ものみの塔の出版物に連綿と続く伝統は、不確かな情報、見解をあたかも確かなもののように、もっともらしい確信をもって読者(エホバの証人)に伝えることと言えるでしょう。

アルミニウム食器の危害にについて

 「黄金時代」に掲載された多くの医学記事の中で、アルミニウム食器に関するものは、この不確かなものを確かなこととして、エホバの証人に広範に信じさせるに至ったよい事例でしょう。ものみの塔のこの当時の見解では、アルミニウムの食器は癌から水虫まで、ありとあらゆる病気の原因でした。「黄金時代」誌はアルミニウム食器の害を警告する記事を、長年にわたり繰り返し掲載しました。これらの一連の記事の中で、ものみの塔協会は終始、アルミニウムの食器は悪魔の霊感を得た人類に対するのろいであり、様々の食物に関した病気の原因であると説きました。

 この結果、当時のエホバの証人の多くはアルミニウムの食器を使っているレストランを避けたり、食中毒が起こるとアルミニウムの食器のせいにしたりしました。「黄金時代」への読者の投稿では、読者がアルミニウムの食器を使うことを止めたことにより、子供の多くの病気が直ったなどという手紙が掲載されました。確かに、ものみの塔だけでなく、医学界にアルミニウムの食器の健康に対する危険を警告する説は出されていたことは確かです。しかし、それは当時でも、一つの学説に過ぎず、その後、アルミニウム食器と病気との関係は認められないという疫学的な最終結論が出された後でも、ものみの塔協会は、長年その独断的態度を変えようとはしませんでした。

医師、医学界に対する態度

 ものみの塔の医学・医療に関する態度を端的に要約するものは、その医師、医学界に対する徹底した、不信と侮蔑の態度と言えるでしょう。

医者たちが使う薬や、血清や、予防接種や、手術などは、時々行われる外科的な処置を除いては、何の価値も無いということを、われわれは肝に銘じておくべきである。彼らの言う、いわゆる「科学」はエジプトの黒魔術から始まっており、その悪魔的な性質を失っていないのである。‥‥「黄金時代」の読者は僧職者の不愉快な真実を知っている。同じように、読者は、医者についての真実も知るべきである。彼らは「神学博士」と同様に悪魔崇拝をする呪い師(医者祭司)から始まったのである。(「黄金時代」1931年8月5日727頁)

 ものみの塔協会の攻撃はアメリカ医師会とその機関誌、アメリカ医師会雑誌(JAMA)にも及びます。アメリカ医師会雑誌は、当時、「黄金時代」やその他の雑誌で取り上げられている、いかがわしい科学的根拠のない民間療法や、いかさま治療に対して、監視の目を光らせていたからです。これに対し、次の黄金時代の記事では、別のいかさま治療の雑誌の記事を支持する形で、次のように引用しています。

アメリカ医師会雑誌は、アメリカの郵便を通して配られる雑誌の中で、最も悪辣なものである。‥‥新しく、役に立つ治療法はすべてこの雑誌の根拠のない非難を免れられない。その攻撃は一般的に言って偏見に訴えるものである。その論説は主に個人攻撃に集中している。‥‥その編集者[Morris Fishbein]はイエス・キリストを十字架にかけたようなユダヤ人である。(「黄金時代」1934年9月26日807頁)

 この本文の主旨とは直接関係はありませんが、この「黄金時代」の記事の中でも、ものみの塔協会が明らかに、当時台頭していたヒットラー政権の思想と同じ反ユダヤ人の差別感情(antisemitism)を煽っていたこと、十字架の使用を問題にしていなかったことが、うかがえます。

感染症の病原体起源説に対する非難

 このような、ものみの塔協会による医師・医療の批判は、科学的に確立されつつあった医学知識に対する、無知とも言える攻撃に発展しています。その当時、感染症が病原体によって引き起こされることは、パスツールにより19世紀に確立され、それに従って予防医学が育ちつつある時期でした。ものみの塔協会は、その雑誌、「黄金時代」、「慰め」(「黄金時代」と現在の「目ざめよ!」との中間で使われた雑誌名)を通じて徹底的に、感染症の病原体起源を否定し続けました。ものみの塔によれば、感染症から細菌が発見されるのは、その細菌が病気を引き起こしているのでなく、病気で弱った体が細菌を発生させる、つまり、細菌は病気の原因ではなく、結果であると信じていました。

医学は悪魔学に起源を発し、過去約一世紀半前までは、悪魔を追い払うことに時間を費やしてきた。過去約半世紀の間、医学は細菌を追い払うことを試みている。(「黄金時代」1931年8月5日728頁)

細菌によって引き起こされると証明された病気は、今までにただの一つもない。(「黄金時代」1924年1月16日250頁)

 次の記事は、現代の微生物学の父と言われ、19世紀後半にフランスで感染症の病原体起源説を発表し、その後の医学、公衆衛生に計り知れない貢献をした、ルイ・パスツールを、臆面もなく、しかも根拠も上げずに攻撃しています。

「パスツールは偽物」

恐水病(狂犬病)は現実のものというより、心の中の作り事である。この病気に金がからんでいなかったら、この病気はとっくに無くなっていたであろう。‥‥「パスツールは恐水病を直さない、彼はそれを植え付ける」。‥‥パスツールは、この映画が描くような公共福祉の貢献者とはほど遠く、彼の教えは何百万人の数え切れない人間の健康を害し、世界中の無数の命を奪ったのである。パスツールの興味は富と名声が第一だったのだ。(「黄金時代」1936年9月23日814頁)

しかしごく最近の問題は、犬に対する狂犬病予防接種の義務づけである。「政治的医療者」たちは一致して、狂犬病を予防するという名目で、何も知らない人々に、彼らの犬に予防接種を受ける義務を押しつけようとしている。狂犬病!狂犬病などというものは存在しないということは、とっくの昔に結論されているではないか!(「黄金時代」1923年1月3日214頁)

 この病原体起源説に真っ向から反対することは、牛乳の殺菌をも否定することになりました。次の記事は、ものみの塔のその立場を明確に示しています。

多くの市では、すべての牛乳はその市で販売される前に、病気を予防するという名目の元に、先ず高温の熱を通さなければならないという条例が施行されている。この過程により、牛乳は腐敗し、化学成分は変化し、変質して、もはや食物としては適さなくなるのである。(「黄金時代」1925年1月28日268頁)

 ものみの塔は、高温殺菌した牛乳を飲むことを危険であると教え、生の殺菌していない牛乳が、健康に良いから飲むようにと奨励し続けました。更に、感染症が病原菌で起こるということを頑固に拒否していたものみの塔は、エホバの証人が食中毒にかかると、食品衛生の改善により、病原菌の混入と増殖を防ぐことを推奨するのでなく、食中毒をアルミニウムの食器のせいにし、アルミニウムを避けることをますます力説したのでした。

ものみの塔協会により推奨された医療の数々

ものみの塔協会による癌の治療

 これは、まだラッセルが会長をつとめている時代のものみの塔誌の記事です。

われわれは、最近、体表にできる癌に対する大変効果的で、簡単な治療法を知った。われわれは、医師がその効能を試してみたのち、その情報を1000ドルで買い取り、癌病院を設立し、治療は順調にいっていると聞いている。その処方はわれわれの所にただで来ており、われわれはその処方を伝えたいと思う。しかしこれは体表の癌に悩まされている人で、われわれに直接手紙を書いて、状態を知らせてくれた者に限る。料金は徴収しないが、患者を守るために、その者は処方を他人に売ったり、その使用によって支払いを受けたり、処方を他人に教えたりしないことの約束を必要とする。誰でも癌の患者であれば、われわれの所から処方箋の得られるこれらの条件について知らせを受けられる。(「ものみの塔」1913年7月1日200頁)

葡萄療法

 1928年の「黄金時代」には、ジョハンナ・ブラントという人間が考案した「葡萄療法」が癌によく効くとして推奨されています。これは絶食をして三度三度、葡萄だけを食べ続けるという治療法でした。そこに紹介されている理論は奇想天外であり、葡萄は磁力を持っており、太陽の振動力と一緒になって病気を治療するという、オカルトがかったものでした。

ものみの塔協会による偽医療器械の推奨

 ものみの塔協会は単に、科学的な当時の現代の医学に反対していただけでなく、彼ら自身、偽の治療器械を推奨していました。その理論的根拠となったのは、「黄金時代」誌で繰り返し紹介された、ラジオニクスという、いかさま医学でした。これはアブラムスという人間の作り上げたE.R.A.(The Electronic Reactions of Abrams)という、見えない振動、電波、光線を使って診断、治療をする、というオカルトを背景を持つ、一世を風靡した偽医学の一つでした。1925年4月22日の「黄金時代」451−455ページには「自動電気診断機」というタイトルの記事が載っていますが、この器械は、このラジオニクスによるいかさま治療の典型でした。この記事はドクター・ギャンブルという、このいかさま治療器を使う、エホバの証人(当時はまだ聖書研究生と呼んでいた)の医師の執筆ということになっていますが、この記事の冒頭で、「黄金時代」の編集者は、このドクターに完全な信頼をおいており、読者(エホバの証人)にこの重要な記事を大きな関心を持って読むようにと勧めています。この記事の中から、ものみの塔協会が、パスツールを弾劾する一方で、どのような医学に、エホバの証人を導いていたかを見てみましょう。

病気は悪い振動から

ここまで述べたことから明らかなことは、どのような病気も、単にその個体の一部の状態が、「調子外れ」になっているだけのことである。言い換えれば、体の冒された部分は、正常より高い、あるいは低い調子で振動するのである。この部分は、他の体の部分と異なった振動をするのである。そこはバランスがとれていない。それが病気なのである。病気の組織は健康な組織よりも多くのエネルギーを放出する。このアンバランスは測定できて、矯正できるのである。‥‥

電気ラジオ・バイオラ

私はこの新発見を電気ラジオ・バイオラと名付けた。この意味は生命が電波あるいは電気により新しくなるということである。私はこれが病気の治療の歴史の中で画期的なものになると信じている。私はこの新発見を一般公開する前に、「黄金時代」の読者にだけ特別に紹介している。バイオラは病気を電気振動を使って自動的に診断し、治療する。その診断は100パーセント正確であり、最も経験のある診断家よりも、この点ではより優れた貢献をし、しかも診断家に払う料金はいらない。

この小さな器械は体のエネルギーを自動的に測定し、もし病気が存在したり、体のエネルギーが平均以下だった場合は、これを矯正する。これは電波振動によって行われ、この振動は人間の体を発電器に変え、抗毒剤の製造所に変える。それは病気の組織の低いバランスを回復し、その働きを徐々に達成する。そして生きている細胞のバランスは完全に回復されるのである。

バイオラの働きは病気の過程の存在と位置とを、大きな障害が起こる前の早期に発見して、電子と体のバランスを並び替えて、自然が臓器や体の一部の回復するのを可能にするのである。

バイオラ波の捕獲

バイオラがその診断において100パーセント正確であることは、普通のラジオ受信機が(人間の体と比較して)、空気や地面の振動を集めるアンテナによって作動することでわかる。アンテナがラジオ受信機に接続されて、正しく周波数を同調された場合は、一つの楽器の音を再生することもできれば、全体のオーケストラも再生できる。これはつまり、一つの病気にかかっているか、あるいは幾つかの病気にかかっているかということに対応している。

操作するに際しては、バイオラは接地電極、あるいは暖房機のラジエターあるいはそれに類する物に接続されており、もう一方は患者の体に接続されている。地球の電流による電磁波は、夫々の体のなかの全ての、そして一つ一つの病気の振動に同調して、自動的に振動する。その病気はいくつあっても、その病気の振動はバイオラの器械に蓄積され、必要に応じて使われる。

バイオラ波の捕獲装置は、これらの病気の振動を捕らえるのに水を媒介として使っている。しかし水はよい伝導体ではないので、その伝導性を増加させるために、ある要素が加えてある。この要素は伝導性を増加させるだけでなく、それに加えて振動を吸収して保存し、また組織や臓器に、病気で破壊された部分を再建するのに必要な薬や要素を届けるのである。すなわち、バイオラは単に病気を破壊する電気的振動を与えるだけでなく、それと同時に、体にその再建に必要な適切な物質を与えるのである。

(「黄金時代」1925年4月22日451−455頁)

 驚くことに、このものみの塔協会の出版物で推奨されているこの医療器械は、病気を診断すると同時に直ちに治療してしまう、それも100パーセントの正確さをもって行われる、ということなのです。現在の連邦食品薬品局(FDA)がこれを見たら直ちに、ものみの塔協会は取り調べを受けることになるでしょう。

 この長大な「自動電気診断機」の記事は、最後に次のことばで終わっています。そこに書かれていることは、ものみの塔の宗教的教義と、このような偽医学との合体が、起こるべくして起こっていることを示すものと言えましょう。

これらの事柄[バイオラの素晴らしい効力の数々]はそれだけで、われわれが疑いなく「黄金時代」に入りつつあることを示している。それは地球上の全住人によって待ち望まれたものであり、その「黄金時代」には、全ての人々が、完全な状態で、生きることの心からの希望、自由、幸福が得られるのである。(同)

 エホバの証人は、現代の世の中には医学でコントロール出来ないほどの悪い病気がはびこり、それが「終わりの日のしるし」であると教えられていますが、この時代には、科学的に確立された医学によらず、このバイオラで健康になることが「終わりの日のしるし」と考えられたのです。

 もう一つの驚くべきことは、ものみの塔協会が、この「電気ラジオ・バイオラ」の器械の通信販売の広告まで、「黄金時代」誌に掲載していることです。ものみの塔協会が、その誌上で商品の宣伝をするというのは例外的なことでした。その広告には次のように書かれています。


電気ラジオ・バイオラ

自動操作

登録商標

電気治療器械の最新のことば。すべての人が払える価格であなたを自動的に治療します。

もしあなたが病気であったり、生活力が正常以下であったら、バイオラを注文しましょう。バイオラは家族全員を治療するのに使えます。この器械はどこの家庭でも、都市でも田舎でも使えます。使用には電力は必要ありません。

バイオラはラジオと同じ原理で動き、その電力を地球の電流の電磁波から取り込みます。

バイオラは病気の電波を捕獲貯留する、疾患電波捕獲装置です。これらの病気の電波は、自然がこれらの電波を発生させた病気そのものを破壊するのを助けます。

バイオラは次の疾患に適応されます。神経性消化不良。心悸高進。便秘。胆汁症。頭痛。鼓腸。ガス。全ての胃、肝臓、消化管の病気。全ての慢性疾患。

今日、今すぐバイオラを注文しましょう。

価格35ドル。注文時現金払い。配達10日以内。

この値段には、通常の使用に充分なだけのバイオドン(バイオラの中に使われる薬剤)が含まれています。

完全で明快な使用説明書はバイオラと共に送られます。

注文の送り先

バイオラ製造会社
3237 クランビー・ストリート
ノーフォーク、バージニア

(黄金時代 1925年4月22日479頁)

 その他、黄金時代誌は、これに類するラジオニクス、あるいはE.R.A.に関係した医療器械を他にも紹介しています。たとえば、患者は紙に自分の名前を書いて、その紙片を器械に入れると、器械は患者の健康状態に関して、イエス、ノーの回答を与えました。その理論によれば、紙の上のインクから、患者の臓器の「電気振動」が読めるのだそうです。これは、何のことはない現代版のウィジャ盤(心霊術で使われる占い用仕掛け板。霊媒や占い師がその板に触れると、その上の文字やことばの上を手が動き、その動きによって霊媒が質問に答える)とも言える、心霊術そのものでした。興味あることに、当時のエホバの証人(当時はまだ聖書研究生と呼んでいた)、ロイ・グッドリッチという人は、このラジオニクスと心霊術との密接な関係に気づき、それを警告する記事を「黄金時代」誌に書きました。しかし、これはものみの塔協会の指導部の不興を買い、彼は排斥処分にされたのでした。(黄金時代 1925年4月22日606−7頁;1930年3月5日355−362頁)

 このような、ものみの塔の科学や医学への無知と、奇想天外なアイディアへの盲信を見るとき、ある人々は、これは当時の、遅れていた医学界の時代の風潮に従っていたのに過ぎない、これはやむを得ない間違いではなかったのか、という疑問を持たれるかもしれません。しかし、ものみの塔協会の立場は、本当にその時代の科学や医療の主流の考え方に沿ったものだったのでしょうか。事実は、その当時からこのE.R.A.やそれを使った医療器械は、いかさま医療であることが、警告されていました。たとえば、1923年10月の「科学と発明」誌では、E.P.A.の発明者アブラムスを「現代のペテン師」として取り上げ、その理論が全くのインチキに基づいていることを示しています。インディアナポリスのベター・ビジネス・ビューロー(アメリカ各地にある、消費者保護のための商品監視組織)はその1942年4月のブレティンの中で「前代未聞の最悪な偽医学」として、「黄金時代」があれだけ推奨した電気ラジオ・バイオラの器械について、消費者に対して警告を与えているのです。

ラジオ・ソーラー・パッド

 「黄金時代」は当時、放射性物質ラジウムを民間療法に使うことを推奨していました。ラジオ・ソーラー・パッドはこのラジウムを、ベルトに埋め込んで、常に体に放射線を浴びさせるという健康法でした。第二代ものみの塔協会会長のジョゼフ・ラザフォードが、彼の慢性疾患の治療のためにこのベルトを着用していたことはよく知られています。「黄金時代」誌にはこのラジオ・ソーラー・パッドの広告が何度も掲載され、会長の推薦が載っていました。確かに、その当時、放射線の人体に及ぼす、計り知れない危害はまだ知られていませんでした。しかし、このラジウムによる放射線の民間療法を推奨するものみの塔協会は、その一方で、診断用エックス線の使用を、危険なものとして警告しているのです。何を推奨し、何を警告するかは、これで見るように、ものみの塔指導部の個人的な好みによって決定されていたようであり、当時の医学界の知見を尊重することはなかったようです。

結語

 このように、医学の歴史の上から見てみると、エホバの証人の歴史は、科学に基づかないいい加減な医学・医療の巣窟とも言え、医学史の研究の上でも興味深いものがあります。何故ものみの塔協会が、このような、いかさま医学に凝っていたかについては、幾つかの考え方があります。一つには、常に不確かな物、あいまいな物を、あたかも確実なこと、絶対的に確立されたこと、として信じ込む、エホバの証人自体の伝統的な体質があることは確かでしょう。上のラジオニクスのいかさま医療について言えば、ものみの塔協会は、病気が病原体の感染によって起こるという、パスツールに始まる理論と実践を受け入れることは、到底できませんでした。そのような立場から言えば、病気は体の一部の異常な振動によって起こるという、アブラムスのE.R.A.の理論は、たとえ心霊術に関係があっても、ものみの塔の病気の理論に最も近いものだったのでした。

 このページの主旨は、このような古い記録を持ち出して来て、ものみの塔協会やエホバの証人を辱めることではありません。執筆委員会は、この過去の、ものみの塔協会の数多くの過ちを学ぶ中で、現在のものみの塔協会とエホバの証人の指導部の、医学や血液に関する一見不可解に見える、教えや言動を理解する鍵が隠されていると信じているゆえに、これを取り上げました。エホバの証人の信じる他の「真理」と同じように、いくつもの教えが、時代と共に変化し、廃止されました。「血の教え」はそのような、エホバの証人の「真理」の歴史の中で捉えていく必要があるのです。

 次のページでは、現在の「血の教え」により近い、予防接種の問題を、同じように歴史的観点から見てみます。


第二章 予防接種に関する教えの歴史

第一部 エホバの証人の血の教えの歴史的発展とその現状

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