the beginning of the end

 

After the turquoise moon dimly appear in the northern sky,

The beginning of the end starts.

The symphony of the stars, a prelude!! Music of angels, toll of fortune,

Blessing through the clouds, and beyond the end of horizon.

The darkness of the sea reveals its veil.

Harmony spreads and concerto forms.

Rhapsody of sensation!! With Sirius aria chiming ends the night

Silent dawn, beginning of sempiternity.

 

そして物語は始まる・・・

 

 

 

 

 

 

 

   
       
       

 

 

 

 

 

 

天使達が地上に舞い降りてきて二ヶ月が過ぎようとしていた。

シンジ、レイ、カヲルは次々と「人的」な物事を学習していき、その進歩は誰もを驚かせた。

いざ住むとなった時、さすがに狭いのでシンジ達はミサトマンションの隣を使うことになった。

ミサトに言わせるとここのマンションはミサトが配属する機関の物であり、ミサトの好き勝手に使っていいということだった。

しかし、アスカとミサトは毎日のようにシンジ達を訪れていたので結果から見れば半同居も同然だった。

レイとカヲルはもちろん面白くなかった。今まで自分たちだけのシンジが、アスカやミサトに親切にするのが気に入らなかった。

小競り合いは必然的にしょっちゅう起こったものの、それは微笑ましく、愉快なものだった。

 

 

 

 

 

 

それは初日のことだった。

アスカとミサトが、愁傷にも歓迎パーティをしてあげると、唐突に宣言したのだ。

『シンジ、今日は私が腕によりをかけて、とびっきりの<あすか・すぺしゃる・めにゅう>を披露するわ!!心して待ちなさい!!』

『シンちゃ〜ん、大丈夫、私がばっちしサポートするから。こう見えても、料理は得意中の得意なのよん!』

アスカがメイン・シェフ、ミサトがサポート役。これで問題が起こらないわけがない。

 一時間経過。

『ギャ‐!ミサトったら何カレーにコンデンスミルク入れてんのよ!!ったく、どういう舌してんの!!!?』

『アスカこそ、何ババロアに豆番醤入れてんのよ!!あ〜あ、赤いミルクババロアなんて、聞いた事無いわ!』

『フン、隠し味よ、か〜く〜し〜あ〜じ!!スイカにだって塩ふるでしょ!!そんな事より、鍋ふいてるわよ!!』

『きゃあ!いっけなぁ〜い!!もう、ミサトちゃんたら、お茶目さん』

『何バカやってんのよ!!30過ぎたらブリッコはやめてよね、オ・バ・サ・ン!』

『ふぇ〜ん、まだぎりぎり20代なのにィ〜!!』

『いいから、とっとと鍋止めんか〜!!』

□ 二時間経過。

『(さすがに味がきつくなってきたわね。もうこうなったら何でも入れちゃえ〜!いいや、後でミサトに毒見させちゃおっと!)』

『(ううぅ〜ん、この芳醇な香り、いいカンジィ〜!早速、アスカにでも食べさせてみるか!)』

『あっ、ミサト、ちょっとぉ〜』

『あ、アスカ。ちょうど良いところに!』

『・・・』

『・・・』

『・・・』

『・・・』

□ 五時間経過。

『もう、こうなったら意地よ。行くわよ、アスカ!!』

『ミサト特製カレー完成!!あっ、そうだ。そういえば、まだナタデココ入れて無かったわね〜』

『フフフフフ』

『フフフフフ』

 十時間経過。

『は〜イ、シンジィ、レイ、カヲル、できたわよ〜!!これぞ、アスカ・スペシャル、ハンバーグステーキよ。デザートにはミルクババロアもあるから!!』

『シンちゃ〜ん、レイ、カヲル。おなかすいたでしょ。やっとできたわ。多分、今までで一番の出来だと思うのよ。ささ、ミサト・カレーよ〜ん!!』

そう言って二人が皿の上に食べ物らしきものを持ってきたところ。

『ヘ・・・!?』

『ホキョ!?』

そこに居たのは、待ちくたびれて眠る三人の天使の姿であった。

『シィンジィ〜、くぅおのぉ〜!!オキロ―‐!!』

アスカ・スマッシュ、炸裂。

その後、シンジ達はやっとの事で起きだして、ニコニコ笑うアスカとミサトの[料理(と呼ぶもの)]を口にしたのだが、どういうわけか、再び眠りの世界に飛び立ってしまった。

その時、彼らの意識が限りなくゼロに近かったのは、神のみぞ知ることである。

『無敵のATフィールドより強いかも…』

 

 

 

 

 

 

それからまもなく、料理当番はシンジが受け持つ事になった。

『ミサトさん、これがフライパンですか?』

『シンちゃん、それはおたまよ』

『ああ、なるほど。じゃあ、これが大根?』

『いいえ、それはかぶ』

多少の行き違いはあったものの、シンジの作った料理は本に忠実に作られており、その味はミサトのものとは違って、常識人が食しても合格点を出せる味であった。

特に、カロリー・サプリメントしか食べた事のない天使達にとっては、全てが新鮮で、最上のものに思えた。

アスカ談。

『能ある鷹は爪を隠す・・・フン!!いいでしょ!シンジ、おかわり!!』

ミサト談。

『シンちゃん、これ、とってもおいしいわ!私も今度は、もっとがんばってみるね。エスニックでも研究してみようかしらん?』

その日、ミサトのマンションから、カレー粉というカレー粉が姿を消した。

 

 

 

 

 

 

ある日の夕方のこと。

「ちょっとレイ!カヲル!いいかげん、シンジの側から離れなさいよ!」

「・・・イヤ。あなたこそ離れて・・・」

「アスカ君。君は少し暴力的だね。好意に値しないよ」

お皿をテーブルの上に出しているシンジに群がっている三人。

他愛のないことに、いちいち騒ぐ三人。要するにシンジに構ってもらいたいだけであった。

「ほらみんな、シンちゃんが困ってるじゃない。ネ!シンちゃん。」

ミサトがビールを飲みながら止めにはいった、と見せかけておいて自分もシンジにすり寄った。

当のシンジに至っては、困ったような複雑な表情を浮かべていた。

「オバサンは黙ってて!」

そこにすかさずアスカの痛烈な批判が入った。

「フェーン!アスカが爆弾ふんだー!」

すごすごと泣きながら引き下がるミサト。ビールの缶を冷蔵庫から出すのだけは忘れなかった。そんなミサトを冷たく見下すレイとカヲル。

ガヤガヤとうるさい四人達をシンジは微笑ましく見ていた。

レイとカヲルが年相応に考え、笑い、そして今という時を楽しんでいる。そのことが何よりも嬉しかった。

自分たちを人間のように扱ってくれるアスカとミサトの心遣いに心から感謝していた。

そんな時だった。

「ハッ・・・!!」

『この感じ・・・』

突然、シンジの手が止まり、手からおたまが落ちて床にはねた。その音で振り向く四人。

「シンジさん!?」

聞いたのはレイだった。その表情は、あきらかに不安を訴えていた。

「・・・大丈夫だよ、レイ。さあ、ご飯にしよう」

シンジはゆっくりと笑ってレイに安心させるように話しかけた。

『大丈夫だ・・・そう、大丈夫・・・』

でもレイは悟っていた。そしてカヲルも。

戦いの日が、再び近づいているという事を。

 

 

 

 

 

 

NERV司令室

二人の男が一人の科学者と話していた。

「・・・シャムシェルとラミエルが完成したか。コントロールは施してあるのだな?」

総司令、碇ゲンドウが不気味に微笑んだ。

「第四、第五使徒には二重のプロテクトをかけておきました。天使シリーズのように自己が表にでることはまずないでしょう」

リツコの手によって創られた使徒達は心を持って生まれた悲しき存在。その精神は自我が芽生えると同時に封印され、生物兵器としての戦闘データを脳に直にインプットされる。「ヒト」とは明らかに異なる二面性の有機生命体だった。

「そうか・・・報告は以上か?ではさがれ。」

それだけ言うとゲンドウは口をつぐんだ。リツコは黙って部屋を出ていった。

重い空気。冷たい視線。愛情は全く見られない。

「どうする、碇?刺客を放つのか?」

冬月コウゾウの問いにゲンドウは無言で首を横に振った。

「それには及ぶまい。そろそろ00がここに来る頃だ。「アレ」の解読法を探りにな。どれ、少し揺さぶりをかけてやろう・・・」

そう言ってゲンドウは高々と笑った。

「碇、お前はまたその血塗れた手で罪を犯すのか・・・」

最後の方は呟きのように囁く冬月だった。

黒い時の刻みが運命の瞬間を知らせていた。

 

 

 

 

 

 

シンジは空を見上げていた。

時既に夜の十時。カヲルとレイはすでに眠りについていた。

「・・・!!・・・」

突然、微妙な大気の違いがシンジを取り巻いた。シンジはその原因を探ろうと、感覚をとぎすました。

「・・・ダメか。やっぱりシールドをかけられている・・・でも、この感じ・・・」

振り返るとそこには安らかに眠るレイとカヲルの姿があった。その表情を厳しく見つめるシンジ。目は笑っていなかった。

「早くしないと・・・早く、プロテクトをとかな・・・ハッ!!」

一瞬、とてつもない不快感がシンジを襲った。限りなく無に近かったその瞬間だったが、シンジは見逃さなかった。

『この感じ・・・EVAだ・・・NERVが誘ってる・・・?』

同じく邪気を感じたカヲルとレイが起きてきた。その不安げな表情にシンジが優しく微笑んだ。

「大丈夫だよ。寝なさい」

シンジは優しく諭すように言った。しかしレイとカヲルはその赤いシンジの瞳が嘘をついていることを本能的に知っていた。

「シンジさん・・・」

カヲルも、レイも、全てを悟ったようにシンジを見つめた。その瞳をジッと見つめ返すシンジ。

「・・・レイ、カヲル。君達の中にEVAの天使チップが埋め込められていることは知ってるよね?」

レイとカヲルがそれぞれ頷いた。

「あれには特別な形状記憶のプロテクトが施されている」

「つまりある種の刺激を与えなければ解除できないと言うことですね」

「そう。あれを物理的な力で除去するのは不可能だ。無理矢理取ろうとすれば100%の確率で細胞が破裂するだろう。

プロテクトの原理は簡単だが3Dで処理されているパスワードとデータをデコードする必要がある。問題はコレだ・・・」

シンジが言葉を詰まらせた。

「MAGIですね・・・」

レイが呟きにシンジが再び頷いた。

「そう。昨夜、近くの大学の設備を無断で拝借させてもらったが、とてもじゃないが情報速度が遅すぎる。

それにあまりにも不確定要素が多すぎる・・・」

「不確定要素・・・?」

「ざっと計算して二百一五億六千七百万。ギガ単位で言うと、マキシマムを軽く振り切るね。やはりここはMAGIを使う必要がある」

「シンジさん、もしかして・・・」

「・・・僕は明日、NERVへ行こうと思う・・・」

「・・・!!・・・」

カヲルが一瞬とまった.

「・・・シンジさん、それはあまり得策ではないと思います。NERVは僕達が来るのを知ってるでしょう。みすみす罠にはまるつもりですか?」

「いや・・・おそらく今頃、次の使徒達が完成している頃だ・・・それに能力者達の動向も気になる・・・」

「だったらなおさら!!」

しかしシンジは首を横に振った。

「今行かないとダメだ。全ての使徒が揃ったら太刀打ちできない・・・」

「じゃあせめて僕達も一緒に!MAGIを使うなら僕の方が・・・」

確かにカヲルの演算能力は、天使の中でも最高値を誇っていた。しかし、MAGIに深入りする危険も最も高く、精神関与を受ける可能性があった。

そんな危険をあえて自分で引き受け様というシンジ。そんな心が嬉しくもあり、悲しくもあった。

「それもダメだ。今のアスカを一人にさせるわけには・・・」

バンッ

いきなり扉が開いた。

「その心配なら無用よ!!」

ババーンと扉が開くと、そこには仁王立ちのアスカと珍しくビール缶を持っていないミサトが高々と立っていた。

「シンジ!私(達)も当然連れていってくれるわよね!!」

長い髪をお下げに結ったアスカがシンジに詰め寄った。

胸をクっと突きつけてアスカが迫った。しかし、その行為もシンジには無効であった。

「ダメだ」

断固とした表情でシンジが首を横に振った。しかしそんなことでひるむアスカではなかった。

「無駄よ!もう決めたから。絶対ついていくわ!!」

「アスカ、おとなしく待ってなさい。君はNERVを知らない」

双方譲らない。

「シンジさん、私も行きます・・・これだけは譲れ・・・」

「僕も、絶対もう離れません・・・」

しかしレイ、カヲル、そしてアスカという黄金トリオが珍しく団結しているので分が悪いシンジ。

「シンちゃん・・・」

そんな中ミサトが真剣なおもむきでシンジに声をかけた。

「お願い。私達もあなたの力になりたい。あなたの負担を少しでも分けてほしい・・・

やるならみんなでやりましょう。私達、「家族」なんだから・・・」

ミサトが「家族」という言葉を使ったのは初めてだった。

シンジは何かとても暖かい物がこみ上げてくるのを感じていた。

「・・・それに私達も役に立つと思うの。アスカはコンピューターの第一人者だし、私は元、国連のAAA調査員、そして「マルドウック」のLevel S軍人よん!!」

AAA調査員とは国連が極秘で雇っていたスパイ達の事である。それぞれ単独で行動し、その任務は全てパーフェクトにこなす。

過去の経歴は抹殺された、全てに置いて上に立つエリート集団である。

「マルドウック」機関といえば、アンダーグラウンドの闇組織。その規模は世界、組織力はかなり高い。

ミサトがAAA調査員、そして「マルドウック」の人間だと聞いて、アスカが目を丸くする。

「私が天才美少女だって言うことは昔から決まっていることだけど、ミサトがAAA調査員だったとはねぇ。しかも「マルドウック」のLevel Sですって?あのミサトがねぇ…」

「そうよん!どぉ?見直した!」

アスカが素直に頷いた。

「ええ。あれだけチャランポランで、どうやって生きていってるのかと思ったらそういうこととはねぇ。あんたってただのオバサンじゃなかったのね」

「キィー!!だぁれぇがぁオバサンですって!」

そんな中、シンジは考え込んでいた。

『アスカを連れて行けばアスカにかけられたプロテクトの情報も引き出せるか・・・』

シンジは腹をくくった。

「・・・分かりました。しかし、これだけは守ってください。自分達の命を最優先に考えること。いいですね!?」

「本当!?まっ、この華麗なアスカ様が一緒に行ってあげるって言ってんだから感謝しなさい!」

「分かったわ。ありがとう、シンちゃん!」

レイとカヲルも嬉しそうに微笑んだ。

手を取り合って喜ぶ四人。そんな中、シンジは複雑な気持ちだった。

『こうなると、加持達も黙ってはいないだろう。それならいっそのこと・・・』

夜には曇月が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

あれからちょうど十二時間がたっていた。シンジ達は各自持ち物を用意し、作戦の最終チェックを行っていた。

「今回のミッションはレイ、カヲル、そしてアスカの中に埋められたチップのパスワードをデコードすること。

これらの解析ファイルはMAGIの極秘ファイル群に隠してあると考えられます。

これがNERVの見取り図です」

バサッ

シンジが細部まで的確に書き込まれたNERVの設計図を机の上に広げた。

「第一のポイントはいかにこのゲートを突破するか。

この敷地には要塞並のセキュリティーシステムが付いていて、コンマ一秒の誤差でも警報器が鳴る仕組みになっています。

力を使ってもいいが、そうするとAT反応が出てしまうので時間が稼げません。そこで・・・」

「空間を飛んでMAGIまで行けないんですか?」

レイの質問にシンジが首を横に振った。

「それはできない。NERVの敷地内にはミクロン単位の粒子が充満していてて、飛ぶには空間が歪みすぎている。

だからこれを使う」

そう言ってシンジが側にあったトランクを開けた。中には制服が一着とIDカードが入っていた。

「これは?」

アスカがその意外性に首をかしげた。

「この制服はNERVの女性職員、アマノ・ノリコさんの物です。

今朝、彼女から「借りて」きました。彼女のカードを使えばとりあえず門にはアクセスできます」

シンジがそこまで言うとアスカがポンと手を叩いた。

「なぁるほど、変装ね。でも誰が・・・?」

みんなの目が一斉にミサトの方を向いた。

「わ、わたしぃー!?」

慌てるミサトにアスカが制服を放り投げた。

「そ、天野ノリコさん!そもそもミサトしかいないでしょ」

「わ、わかったわよ!でもこの人33よ。ちょっと歳が離れすぎてるわ!それにウエストガバガバ、胸だってスカスカよ!!」

ミサトがふくれた。よっぽど30代に敏感なのだろう。

「ふん!四捨五入すれば同じでしょ!」

馬鹿にしたようなアスカ。それを聞いてミサトが怒った。

「言ったわねぇー!」

くだらない事でもめる二人。そんな彼女たちを平然と無視するレイとカヲル。

「それで・・・?」

「ミサトさんさえ中に潜り込めればセキュリティーのロックが解除できる。

ロックが外れた瞬間には主電源が予備電源に切り替わるまでの間約十秒、電気が完全になくなる。

その間、僕、カヲル、レイ、アスカは侵入、及びまわりの兵士の除去を行う」

やっと決着がついたミサトと飛鳥が首を出す。シンジは門から少し離れたオレンジ色で塗られたビルを指さした。

「ここが第一研究所。ここの地下七階にMAGIがあります。

レイとカヲルはアスカとミサトさんと一緒にこっちの広場で待っていて。たぶん兵士達が来るだろうけどその時はフィールドを張れば大丈夫です。

僕はMAGIにアクセスも試みます。十五分で戻らなかったら迷わず撤退。いいですね?」

厳しい表情のシンジ。その表情は決して有無を言わせないことを、硬く決意していた。

渋々頷く四人。

「危険行動は絶対、慎む事。常に自己を最優先に考えて」

しかし、レイもカヲルもアスカもミサトも知っていた。自分たちが危ない目にあおう物なら、シンジは真っ先に身を張って助けに来ることを。

それなのに・・・

なおさら心が痛かった。

「・・・では行きましょう・・・」

シンジが設計図を閉じた。

火蓋が切られようとしていた。

 

 

 

 

 

 

真夜中の十二時。

黒いボディスーツに着替えた四人と制服姿の一人はNERVの前まで来ていた。

「ミサトさん、中に入ったらすぐ側にあるオレンジ色の柱にこれを差し込んで下さい。」

そう言いながらシンジがエナメルのカードをミサトに渡した。

「これは?」

「一昨日プログラムしたジャミングシステムが入っています。自動でセキュリティーシステムをデバッガしてコードを解除します」

ミサトはシンジの恐るべき才能に感嘆していた。しかしそれはまた、シンジの人間性が欠如している印だと知ると悲しかった。

「カヲル、レイ。ちょっと」

シンジがレイとカヲルを手招きし、小さな機械を渡した。

「??」

困惑したようなレイとカヲルにシンジが真面目な顔で話しかける。

「発信器だ。危なくなったらここに付いているボタンを押しなさい。ついでに通信もできるようになっている」

その緑色の機械は絶対の安心感を与えた。レイとカヲルがそれぞれ頷いた。

戻ってくる三人。そんなシンジ達をアスカが面白くなさそうに見ている。

「ちょっとシンジ!何やってたのよ!」

そんなアスカに黙って微笑むシンジ。するととたんに口を噤んでしまうアスカ。

『あの笑顔は反則よ・・・』

そんな中、シンジが静かに言った。

「・・・スタート・・・」

四人が散った。

 

 

 

 

 

 

一人の女性がお色気たっぷりで歩いていた。

「誰だ!!」

門番達が一斉に銃を構えた。

しかし胸のIDを見ると拍子抜けしたように構えを崩す。

「何だ、職員か。ったく。通用口を使えよ・・・」

見事なまでに化けたミサトが入ってきた。

「イヤァー、ごめんなさぁーい。ちょっち急いでたもんだから。」

営業スマイルで対応するミサト。ちなみに胸がはだけた制服に直してあるのは言うまでもない。幸い天野ノリコは二ヶ月前に赴任してきたばかりなので、門番とは面識が全くなかった。

『制服美女って言うのもいいわねぇ!私もまだまだ捨てたもんじゃないわ。くすっ』

くだらないことを考えつつもしっかりとシンジに言われた柱へ向かうミサト。着いてみるとセキュリティー管理装置と書かれた箱の下に、小さなカードの投入口があった。

『あった!』

早速カードを入れようとする。

「オイ、女!そこで何をしている!!」

ガガッ

後一歩と言うところで門番が怒鳴る。冷たい銃口がミサトに向けられる。

『ふん、このミサト様がそんなもんでビビルかぁ!!』

ミサトは構わずカードを押し込んだ。

プッ

その瞬間、うなりと共に、暗闇が訪れた。

「何だ?何が起こったんだ?」

パニックに陥る門兵達を尻目に制服を脱ぎ捨てたミサトが叫ぶ。下にはアスカとそろいの黒のボディスーツを着ていた。

「今よ!」

バン

その叫び声と同時に門がぶち開けられ、四つの影が飛び出してきた。

サーチライトだけが不気味に飛び交う兵士達を照らしていた。

悲鳴、そして。

辺りは混沌と化していた。

「ミサトさん、大丈夫ですか!」

駆け込んでくるシンジ。心配そうにミサトに尋ねる。

「ふっふっふっ、ぜぇ〜んぜん平気よぉー!血が騒ぐわぁー!!」

一人で浮かれているミサト。ファイティングポーズなどをとって、勝手に踊りまくる。アスカなどは他人のふりをしていた。

「じゃあ、僕、行きます」

そう言ってシンジが飛び上がる。するとアスカが覚え立ての力でシンジの所まで全速力で飛んだ。

「シンジィ!!」

「アスカ!戻りなさい!」

「ふん!おあいにくさま!ぜぇーったい、一緒に行くわよ、バカシンジ!」

ふてきな笑い。そんなアスカをレイとカヲルが睨んでいた。

「アスカ、戻るんだ!」

強い口調で怒鳴るシンジだったが、アスカは耳も貸さない。それどころかシンジを引っ張りながら、スピードを上げた。

「・・・」

諦めたようにため息を付くシンジ。しかしある意味では良策だった。

『力が分散していれば敵も散開するはず・・・』

二つの影が地上すれすれを「駆けて」行った。

 

 

 

 

 

 

廃都。

世の中の闇と影が交わるところ。誰からも見捨てられた人生の落第者達が集まる場所。

旧東京都市の中心には元・日本のシンボルの第三東京ビルがあった。朽ち果てられたそのビルは封印され、誰も近寄ることができなかった。

その地下室。二人の男が話していた。

暗闇の中で蝋燭の灯りがちらちら揺れる。

「・・・マスター。たった今、NERVに天使反応がありました」

「そうか。さすがに「皇帝」、聡いな・・・」

ニヤリと笑う「皇帝」と呼ばれた青年。

「・・・「法王」達は完治したか?」

「はい、三日ほど前に。ただユーリのヒールだけだと精神力までは回復できないので戦闘はまだ無理かと・・・」

「そうか。ではお前と「女力士」が行け。レイとカヲルは始末。私はルシフェルを奪還する」

「了解」

消える少年。残された男は静かに笑う。

「・・・ルシフェル、堕天に落ちた私の天使」

 

 

 

 

 

 

再びNERV中央広場。

レイとカヲルは来る兵士達を無情にフィールドで張り飛ばしていた。

ミサトもミサトで、改造銃で的確に急所を狙って応戦していた。

バタバタと倒れる兵士達を尻目に、三人はそれぞれ全く関係のないことに思考を巡らしていた。

『許さないわ、あの赤毛・・・シンジさん・・・くすん・・・』

『美しくないね、アスカ君。今のぬけがけは君の最大の汚点だよ』

『アスカもやるわねェー。ツーショットとは見せつけてくれるじゃないの』

まるで緊張感のない三人。所詮、厳選されたエリート兵士など、三人から見たらただの無力な小ウサギだった。

あらかた兵士達がかたずいた三分後、レイ達三人は息一つ切らせずに立ちすくんでいた。

あまりにも広いNERVの敷地は兵士達の移動にとてつもなく時間がかかる。万能科学都市の唯一の難点といえた。

追っ手は見えない。

その時fだった。

「・・・!?・・・」

巨大な爆発音が後ろの方でした。連鎖反応を起こして次々に火花をあげていた。

慌てて後ろを振り向くミサト。その顔は驚愕と言うより怖れに近かった。

「・・・まさか・・・こんな・・・」

後ろはまさに「消えて」いた。さっきまで気絶していた兵士達の姿はもはやこの世に存在せず、影だけが残っていた。

「キャハハ!弱いわねぇ!」

突然笑い声がした。無邪気な子供のような、全く邪気のない声だった。

「こらっ!リュキア、これは遊びじゃないんだぞ!」

怒ってはいるがどことなく楽しんでいるような声。ふざけた、おどけた笑い声。

その二人は先ほどのオレンジ色の柱の上に立っていた。鳶色の目をした青年が獣のような妖艶さを備えた少女と並んでいた。

その二人から滲み出る独特の性質を敏感に感じ取ったカヲルとレイは、瞬時に状況を悟った。

『能力者・・・』

すると上の二人もレイ達に気付く。一瞬姿を消したと思うと、次の瞬間にはレイ達の目の前に移動していた。

「こんにちは。天使の皆さん。といっても二人だけどね」

そう言って楽しそうに笑うその青年は、にこやかな笑顔を浮かべていた。

「僕は04『皇帝』ラン。そしてこっちがリュキア。たぶんもう知ってると思うけど、あなた達を殺しに来ました。」

華やかに笑うランという青年。

「09『女力士』リュキアよ!よろしく」

側にいた少女が微笑む。その少女は野性的な匂いを漂わせ、異形な美を誇っていた。

「人間じゃない・・・?」

そのミサトの呟きに一瞬顔をしかめるリュキア。しかし側にいたランの表情を見て再び落ち着く。

リュキアのその肢体も、目鼻の数も、別に人間と変わらなかった。しかし彼女の眼には通常の白い部分が存在せず、猫のような虹彩を持った眼だった。

豊かな闇色の髪の横からは、獣のようにとんがった耳が覗いており、真っ赤なルビーの耳飾りが揺れていた。

彼女はまさしく獣だった。とても美しい、そして神々しい獣だった。

「ニンゲン?そんな下等な生き物と一緒にしないでほしいわ。あんな下等な・・・」

先程までの明るさはもはや消えていた。激しい憎悪と燃える瞳。その蒼くきらきら光る眼は憎しみに染まっていた。

「・・・」

レイもカヲルも何も言わない。彼らもまた、リュキアの悲しみが分かっていた。実験材料としか見られなかった毎日。限界を遥かに超えたプログラムを強要されてきた。でもシンジはそんな荒んだレイとカヲルの心を癒してくれた。今の彼らは「人間」という種を愛していた。

「サッサト死ニナ!コノ虫ケラメ!」

次の瞬間、リュキアの体が異様なオーラで満ちた。

「ハッ!!」

それと共に、二人の能力者とレイ達の姿は闇に紛れて消えた。

「・・・あっ」

後に残ったミサトは月のでない深い空をいつまでも見上げていた。

 

 

 

 

 

 

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VERSION 1.10

LAST UPDATE: 8/04/99

 

 

CARLOSです。

「堕天使」第六章 侵入者/防衛者、をお届けしましたが、いかがでしたでしょうか?

だいぶ疲れてきました。(笑)

でも、がんばって次へどうぞ〜

 

 

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